学ぶこと問うこと

塩基配列決定実験

 

スラブゲル電気泳動による塩基配列決定実験

2010年12月27日

ご連絡いただきありがとうございました。 私の理解するところでは、310では数検体だけの配列を決め、それをもとに仕事を進める、という場合には、便利なものです。一方で、3100ではできれば16検体で行うと良く、数検体というのは一般にはコストパフォーマンスが若干悪いと思われます。(レーザーの代金に比べてしまえば、たいした金額の差でもなさそうですが。) 検体数をまとめると仕事の効率がまったりしてしまうので望ましくない、という場合には310を持っておくのは良いことです。

年あたり30回から50回程度とすると、若干少なめとはいえ、まあ相当な回数なので、自分でいつでも使える機器を持っておくことはどちらかといえば有利だと思います。その都度の検体数によって、310があった方が良いかどうかが決まるでしょう。その都度の検体数が多ければ共用の3100がベターで、310を自分でもつのは余分な負担です。

一方、310を持つ、ということは310で塩基配列を決めることを自分でやる、ということを意味します。ので、先生ご自身が、しょっちゅう使うことで、しっかり活用してあげるようにすることが大切です。レーザーのついている器械は、レーザーが消耗品かつ100万円内外と高価なのが難点です。また、Y大学では塩基配列決定のサービス部門やテクニシャンを持っていません。基本的に自分で行うという状況のようです。(これに関しては、将来、サービス部門を作ろうという方向もあり得るとは思いますが、現状はこの通りです。)

判断のためのひとつのヒントとして、先生ご自身が、学生と一緒に塩基配列決定実験を行い、しっかり教えてあげて自分でも塩基配列決定できるように教育する、というのであれば310に関して自分たちのものを持っているのは良いことに思います。塩基配列のような基盤データを、学生にきっちり読ませる、というのは、研究の質によっては、とても大切で良い教育にもなり得ます。

対照的に、塩基配列決定は、ほんの時たまで、学生に教えても次回は時間が経ちすぎていて双方(すくなくとも学生は)やり方を忘れている、というのであれば、外注などの方が良いでしょう。ほんの時たま数検体であれば、レーザー代金に比べて外注の方が圧倒的に安いし、時間をほかの大切なところに使えます。自分で使う気持ちになれなければ、器械を持たないのが身軽です。

以上のようなところを考えて、先生の仕事の今後の性質から判断すると良いと思います。その上で、F先生と相談してみてください。

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ちなみに私自身は、1992年から数年間、ガラス板を磨いてゲルを流し、高圧の電気泳動、RIの32P、とても読みにくい塩基配列決定を自分でやっていました。たった600ベースを読むのも両方向、端からだけでは難しいことも多く、プライマー2本を余分に作製したこともあります。その作製も自分で器械を操作して作りました。さらにオートラジオグラフィーのパターンを読むのが読みづらくてまた難儀でした。私の弟子たちは、あからさまに?軒並みいやがって習おうとしないので、私が弟子のためにテクニシャンとなって実験し読んであげているという数年間でした。全部足し合わせてもたったの50kbほどに過ぎないのに、うまく読めない場所が多くて繰り返すことも多く、体力的にも気力的にも実に苦しい実験で、今から思うと、自分に対してマゾヒスチックだったかもしれません。

その数年後には、キャピラリの時代となり、私は器械を持っていなかったので、外注するようになりました。310や3100の時代になって、隔世の感があります。そして今は、310も実に旧式と見なされる時代かもしれません。レーザー切れなどで捨てられるのもむべなるかなです。

上記のようなスラブゲルによる塩基配列決定のためのパワーサプライや泳動槽を、S大には持ってきたのですが、12年間、使った事例がありません。今となっては、旧式な技術の代表のような技術で、せっかく腕を磨いたのに、誰にも「ガラス板磨きのコツ」その他もろもろを伝授する機会があろうはずもありません。今回の引っ越しで、またY大学に持ってくるべきかどうか、別の実験に使えるのかどうか、私もF先生に聴いて教えてもらわなくてはなりません。

また、「現在の私の仕事に関してだけ述べれば、ちょこちょこと即戦的に配列確認しながら進めるような仕事がほとんど無く、310がコスト面から絶対有利な状況にありません。大体は待期的にある程度まとめて塩基配列を決めればよいような仕事がときどき(年に数回程度)あるだけです。よって、共用の3100があればコスト面も含めて不足はないと思います。」 と書いたように、現在、抗原候補を見つけると、すでに市販で対応するcDNAを売っているのでそれを購入して使うことが多く、気合いを入れてのめり込む遺伝子以外は自分でPCRで得る、ということも無くなってしまいました。なので、ほとんど塩基配列を読んでいません。前回頑張ったのは、今の、プロテインGのIg結合部位の溶連菌からのPCRクローニングで、すでに2年前です。このような場合には、一度に多くのPCR産物の配列を読みますので、器械は3100でぴったりです。310が要らないと考えた所以です。

それでは、良い年末・お正月をお迎えください。来年、いっしょにまた仕事できるのを楽しみにしております。
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以上、スラブゲル電気泳動による塩基配列決定実験、2010年12月27日付け記事より再掲

 

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