philosophy

怒りを伝える・受けとめる

中島義道 怒る技術 角川文庫 平成18年 キンドル版は平成26年

相手に怒りを伝えたがらないのは、相手を傷つけるからですが、むしろ第一義的にはそのことによって自分が傷つくからです。つまり、相手との関係を悪化させたくないからであり、表面的にも友好関係を保っておきたいからです。しかし、そればかりでもない。その人を切り捨てることによって自分は何の損害も被らないとしても、相手に怒りを伝えないことが多い。ひたすら面倒だからです。(中島、同書、5 相手の怒りを受けとめる技術)

あなたが相手に怒りを伝えようと決意したからには、あなたは自分に対する相手の怒りをも正確に受けとめねばならない。その場合、あなたは相当の不愉快を覚悟しなければなりません。・・・(中略)・・・こんなことをおそれていたら、怒りの修行などできません。(同じく中島、同書、5 相手の怒りを受けとめる技術 キンドル版位置ナンバー1396)

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中島の「実用書」・技術指南書、つまり哲学書というよりは哲学者による人生アドバイスの一般書。中島の長年の確固たる実践に基づくアドバイスなので、局所的に非常に説得力に富み、どんどん読み進められる。ただ、私、実用書を読み終わると、ほとんどの場合は「よし、では今度からすぐにこれを実践してみよう」と取り入れる積極トライ派なのであるが、今度の中島による実用書に関しては、新しく実践し始めてみたいことが今は具体的に思い当たらない。

24歳から56歳まで32年間の職業科学者として、また大人としての人生で、怒りに関しても、私なりによ〜く実践して来た。今は、少なくとも怒りに関して、やり残したことは少ないような気がする。老兵として退役したような気持ちであろうか。しかし、本当に中島さんのように命をかけて頑張って怒ってきたか、と問われると、甚だ心許ない。これからの新しい人生、怒りにおいても、(中島さんを超えることは不可能だとしても)私ももう少し若々しく取り組んでみるとよい。

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ある事柄に対する「怒り」は最も明晰にその人の生き方を露出するのだ。ある人が何に対して怒り何に対して怒らないか、何に対して猛烈に怒り何に対してわずかにしか怒らないかが、その人の最も深い信念を示してくれるのである。(中島義道 ニーチェ:ニヒリズムを生きる p50 河出ブックス 2013年)

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