philosophy

真実を語る:そして誰もいなくなった

真実を語りつづけよ: ほんとうのこと vs きれいごと

中島義道 「哲学実技」のすすめーーーそして誰もいなくなった・・・ 角川oneテーマ21 2000年(キンドル版は2014年)

「ほんとうのこと」を語るには厳しい修行がいるのだ 中島義道(中島、同書、Kindle版、56%) 

2015年3月27日 金曜日  キンドル版で購入してその日のうちに通読してしまった。哲学対話としてすぐれた著作。劇的な構成。以下は同書からの書き抜き。

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ぼくの言う「ほんとうのこと」とは軽薄な思いつきを次から次に言うことではない。そうではなくて、なんと言うか、自分の「からだ」の中で濾過され、自分の信念の根っこから伸びている、譲れない言葉だ。これは、自分の価値観が世間の価値観と対立する場面でこそ、可視的になる。・・・固有の言葉の根っこから生えた言葉は、その理由を次々に挙げることができる。少なくとも、それを探求する姿勢がある。「・・・」と自覚的に世間の価値観と対立する言葉を語り出す姿勢をつくり、あるいは「・・・」と冷静に自問して、自分の価値観や美意識の根っこを探ろうとする姿勢をつくってゆく。(中島、同書、Kindle版、52%)

ぼくは「ほんとうのこと」を常にそのまま語るべきであると言っているのではなく、積極的に嘘をつくべきではないと言っているのだ。(中島、同書、Kindle版、53%)

しかし、ようく事態を見てほしい。こうした政治の場面における「ほんとうのこと」とは戦略的に「ほんとうのこと」なのだ。それは、真実という一面も有しているが、何が何でも自分の信念を守るという狂信にはるかに近い。つまり、ここには柔軟な思考の放棄がある。自己批判的な思考が消えている。つまり、思考の体力が減退しているのだ。「ほんとうのこと」がみずからの信念にもとづく事実であること、A君の言う価値的な事実であることはまちがいないが、あくまでもそれは繊細で自己批判的な思考に裏付けられていなければならない。言いかえれば、すべての可能なーーーいいかな、「現実の」ではなくこの「可能な」が大事なのだよーーー他人の見解に対して聞く耳をもつこと、そうして可能的にいつでもみずからの信念を変える用意のあること、こうした柔軟な姿勢にもとづいた信念こそ、正確な意味における「ほんとうのこと」なのだ。(中島、同書、Kindle版、54%)

ぼくたちが「ほんとうのこと」ばかり語ることができないのはなぜか? 他人を傷つけたくないから。つまり、自分を守りたいからだ。このメカニズムをしっかり自覚していれば、それだけでかなりのものだ、とぼくは思う。(中島、同書、Kindle版、57%)

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ぼくが言いたいことのすべては「できるだけ真実を語りつづけよ」という一点に収斂するのだ。そこから導かれるあらゆるカッコつきの「害悪」を噴出させても、真実を語りつづけるという使命を担うのは哲学しかないと思っているからさ。それが哲学者というものの中核をかたちづくると信じているからさ。(中島、同書、Kindle版、63%)

「他人を傷つけたくない人は自分がそれによって傷つきたくない人なんだ。それを潔く認めなさい」と言いたい。
だから、ぼくは「自分が傷つくことを恐れるな」と言っていることになる。
・・・「友人を救いたかった」けれども「正しくなかった」というギャップをもちこたえて、ここのところをどこまでも正当化しないことが哲学者の哲学者たる所以だと思う。いいかい。あくまでも哲学者としてだよ。これを忘れないように。(中島、同書、Kindle版、64-5%)

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ぼくは、それぞれが与えられた立場で、「ほんとうのこと」を語ろうと努力してもらいたいということに尽きる。それができない場合は、「しかたなかったんだ」という呟きを自分に対してなるべく許さずに、安易に解決せずに、「ほんとうのこと」を語れなかったことに悩んでもらいたい。それだけだ。
・・・真実を語ることは多くの場合危険なのだ。だからこそ、それにもかかわらず語ることに価値があるのだ。(中島、同書、Kindle版、69%)

わずかでも「自分は正しい」と思うことをやめること。むしろ「自分は正しくない」と無理にでも思ってみること。これは、きみの精神を鍛えるうえでたいそう重要なことだ。(中島、同書、Kindle版、81%)

だが、これらと区別された厳密に哲学的態度はそうであってはならないと思う。哲学においては、生き方と独立の真理の追究はないと思う。(中島、同書、Kindle版、82%)

ぼくは哲学の名において、次第に世界のあり方を問うことより「いかに生きるべきか」を問うことに重心が傾いている。・・・むしろ足元に開けている日常の生活へ向けて問いを発し答えを探り当てることだ。それが「からだ」で考えること、思考の「体力」をつけることだと了解しているんだよ。(中島、同書、Kindle版、84%)

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