スタンダール パルムの僧院(1)

2017年3月28日 火曜日 夕方から雪

スタンダール パルムの僧院(上・下) 生島遼一訳 岩波文庫 赤526-5 1952年

補註 スタンダールが好きだったというチマローザの歌劇「秘密結婚」をユーチューブで聴きつつ、「パルムの僧院」を読んでいる。

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この不人情なことばと、それにつづくみなの嘲笑は、ファブリスをがっかりさせた。戦争とは、彼がナポレオンの宣言から想像していたような、光栄を愛する魂が一致協同して動く高貴な躍動ではなかったのだ! 彼は芝生の上にすわる、というよりぐったりたおれてしまった。・・彼は機械的に立ち上がり、そのあとを追った。・・馬車に乗るやいなや、わが主人公はもう疲労にたえきれなくなってぐっすり寝こんでしまった。(スタンダール、同書上巻、p91)

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まえにはわが主人公の橋のたもとの事務所(国境・通関)での恐怖をありのままに語った。それと同じ率直さで彼のもひとつ別な弱気を打ち明けるのだが、彼はいまはもう目に涙をためているのだ。こういう田舎の人たちのゆきとどいた親切にすっかり感動していた。(スタンダール、同書、p330)

補註 この小説で主人公ファブリスは、危機に瀕している各場面で、必ずとても親身に主人公の面倒を見てくれる親切な人々に出会うのである。ファブリスの人徳もあろう。作者スタンダールの作風・人生観でもあろう。「こんな都合のいいこと現実の人生ではあり得ないぞ〜〜」などと感じておられる読者は、やはり現実にファブリスのような幸運に巡り合わせたことがない、そしてまた、スタンダールのような作家に主人公にしてもらえない、そんなごく普通の生まれと運勢の人間・読者なのである・・だから安心して人間の位置、そして読者の位置に甘んじよう。あくまでファブリスは小説の主人公なのだ。神話や物語としてこのお話を楽しめば良いのである。

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「・・また、素直に敬虔に、利口ぶらず、派手でなく、鋭い返答などしないこと。あのひと(=大司教ランドリアニ)をおじけさせなかったらあなた(=主人公のファブリス・デル・ドンゴ、この時23歳、1798年生まれ)を気に入ります。あのひと自身が進んであなたを副司教にしてくれることが必要だってことを忘れちゃ行けません。伯爵(=モスカ・デルラ・ロヴェレ伯爵、この時はパルムの首相)と私(=サンセヴェリナ公爵夫人=前ピエトラネーラ伯爵夫人=ファブリスの父デル・ドンゴ侯爵の妹ジーナ)はそんな早い昇進にはおどろいたり不満だというような顔をしてみせるつもりですが、それは大公さま(=パルムの大公ラヌッチオ・エルネスト四世)の手前そうしなければならないのですから」(スタンダール、同書、p235)

補註 ファブリスとヤマトタケル
ここまで(全体の4分の1ぐらいか)読み進めてきて、このように毎回、世慣れた美しい叔母に賢いアドバイスを受けながら出陣していくファブリスの姿を見ていると、やはり叔母の倭比売命(やまとひめのみこと)からアドバイスを受けながら武器や衣装を与えられ出陣していった我が国の倭建命(ヤマトタケルのみこと)の姿を思い出すのである。倭建命は最後に、倭比売命からのアドバイスを受けることなく、大事な草薙の剣を携えずにでかけ、本物の神である白イノシシを小物(神の使い)と思いこんで看過し、破局を招いた。この倭建命と同様の失敗を、このイタリアの貴公子ファブリスが犯すことになるのか否か?

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「・・また、下層階級の者たちが賃金を払ってさせている仕事以外のことについて私になにかいうことは、断じて許しませんでした。」(スタンダール、同書、p228)

補註 上記の部分、日本語の意味が曖昧で、私にはすんなりとは理解できない。賃金を払っているのは誰か? その「仕事以外のこと」とは具体的にどのようなことを指すのか? 私になにかいうのは誰か? 断じて許さなかったのは誰か? 
 この訳文だけからでは断定できないが、取りあえず、以下のように考えておく:
 下層階級の者たちが、(ファブリスたち神学校の学生やスタッフが)(下層階級の者たちに)賃金を払ってさせている仕事以外のこと(=政治や宗教その他もろもろのこと)について、私(=ファブリス)に(下層階級の者たちが)何か言うことは、(私=ファブリスが)断じて(下層階級の者たちに)許しませんでした。
 もしこの解釈で正解であるとしたら、括弧無しの文章にする場合には、以下のような文章の方が日本語として分かりやすいと思う。
「・・また、下層階級の者たちが、私たちが彼らに賃金を払ってさせている仕事以外のことについて、私に何か言うことに関しては、私は断じて彼らに許しませんでした。」
上記から冗長な「彼らに」2個を除くと、「・・また、下層階級の者たちが、私たちが賃金を払ってさせている仕事以外のことについて、私に何か言うことに関しては、私は断じて許しませんでした。」・・とこうなると、訳者の元の文章に読点を2個入れただけなのである。・・とまあ、余計なことをあれこれ考えてみても、原著のフランス語を参照しない限り、生意気なコメントに終わってしまう。そこで今後は、訳書を読む場合には細かいところで立ち止まらず、どんどんと読み進める方針でいきたい。

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