ディケンズ ハード・タイムズ

2017年4月13日 木曜日 雪(猛烈な風の吹雪、ただし路面の温度は高いので高速道路のクルマは流れている。飛行機はひょっとして止まるかもしれない)

チャールズ・ディケンズ ハード・タイムズ 山村元彦・竹村義和・田中孝信訳 英宝社 2000年 (原作は1854年4月1日から8月12日にかけて「家庭の言葉」に週刊連載された。ディケンズ、42歳)

「お父様はわたしに生命を与えて下さっておきながら、生きるよすがとなる小さな日々の喜びを、何から何までどうして取り上げておしまいになったのです? わたしはそのため死んでいるとしか思えないような状態で生きてきました。わたしの魂の美しさはどこにあるのです? わたしの感情はどこにあるのです? 何をなさったの、お父様、いつかは花が咲くべきだった庭になにをなさったの? 今は、ここに、ただ広いだけの荒野があるだけ」
 彼女は両手で自分の胸を叩いた。
 「もし一度でも、ここに、花が咲いていたら、その灰だけでも、救いとなったでしょうに。それなのに、今、わたしの人生は何もかも救いようのない空虚のなかに沈み込んでいるのです。こんなこと、言うつもりじゃありませんでした。・・・(中略)・・・今、わたしがつい口にしてしまったことは、あのとき、ほんのちょっとしたきっかけをお父様が与えて下さってたら、きっと口にしていたでしょう。わたし、お父様を咎めてるんじゃありません。私の中にお父様が決して育むことのなかったものを、お父様はご自分の中に決して育んでおられないのだから。だけだ、ああ! お父様がずっと前にそうなさっておられさえしたら、あるいは、お父様がわたしのことを構わずにほっておいて下さりさえすれば、ずっとよかったでしょうし、わたしだって、今日、もっと幸せな人間だったことでしょうに!」(ディケンズ、同書、p386)

ただ、その結婚にまったくどうでも構わないわけでもなかったのです。というのは、トム(補註:ルイーザの弟)にとってよかれと思ったのです。実体のないものに向こう見ずな逃避をしたのです。今ではそれがどれほど向こう見ずなことだったか、少しずつ分かってきました。(ディケンズ、同書、p389)

補註 ルイーザが大雨の夜、一人、汽車に乗ってコークタウンの実家に戻り、父のグラッドグラインド氏に会ってすぐに訴え語る言葉。
 ハード・タイムズの舞台はロンドンの遙か北に位置する架空の工場町コークタウン。

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 彼女は頭を上げなかった。自分の惨めな姿が見られたという鈍い怒り、あのときひどく彼女を憤慨させた、あのふと表れた眼差しの予言通りになってしまったのだという鈍い怒りが、毒の炎を上げて彼女の内面にはくすぶっていた。ちからは完全に密閉されると、裂け、爆発するものである。・・・(中略)・・・彼女の最も強い性質は、長い間自らを押さえ付けるために用いられてきた結果、今や大きな一塊の強情となって、友に反抗して立ち上がったのである。(ディケンズ、同書、p402)

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「わたしはただ、あの方への愛、あの方のわたしへの愛に心動かされただけです。あの方がおうちに戻られてからおそばに置いていただき、心を打ち明けて下さったということだけを頼りとしているのです。あの方のご性格と結婚についてある程度存じ上げているということだけを頼りにしているのです。ああ、ハートハウス様、あなた様だって、それを頼りとされておられたはずです!」
 この熱のこもった非難の言葉は、彼の心があったはずの空洞を突いた。そこは、今では腐った卵の巣になっていたのだが、もし口笛を吹いて追い払われていなかったならば、天国の小鳥たちのすみかとなっていた場所だった。(ディケンズ、同書、p415)

補註 シシーがハートハウス氏を訪ね、語る。

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