ディケンズ ピクウィク氏の冒険

2017年4月12日 水曜日 雨

C.ディケンズ 英国紳士サミュエル・ピクウィク氏の冒険 梅宮創造訳 未知谷 2005年
(The Posthumous Papers of the Pickwick Club)

ところが今、こんな獄舎にしけ込んでいるよりも、ずっと立派に振る舞える好機がすんなり到来したのです。獄に留まるなんて、あなたを知らない人からすれば、こちんこちんの石頭、意地っぱり、天邪鬼とされるのが落ちでしょうな。それだけのことですわ、まったく。片や、ご自分の友達の所へ、元の研究へ、健康で楽しい日常へと戻ることもできるのに、何をためらうことがあるんですかい。あの忠実で献身的な下僕を自由の身にしてやることだってできましょうが。(同書、p315)

補註 弁護士のパーカー氏がピクウィクに語る台詞。フリート債務者監獄に入獄中の場面である。債務者監獄については、「リトル・ドリット」でも紹介した。ディケンズのお父さんも家族で入れられていて、ディケンズ少年は靴墨工場で児童労働者として働いたのであった。
 本書、梅宮訳は全訳ではなく、抄訳しかもかなりの意訳とのこと。今まで私は滅多に抄訳本は手にしてこなかったのだけれど、ディケンズに関しては、私にとって英語がかなり難しく、いわゆる初見では(実際にはオーディオブックなので初聴というべきだが)ほとんど頭と尻尾がどこにあるかさえ聴き取れないのである。そこで、適当な日本語訳が手に入れば、とりあえず通読して頭に概略を描いておき、そのあとからオーディオブックに取り組むことにした。S市の中央図書館の棚に並んでいるのを見初めて借りてきた。

**

おいらは今までな、タイツを穿きゲートルを着け、眼鏡までかけた天使なんざ、聞いたこともなきゃ、物語で読んだことも、絵で見たこともねえんだ。憶えてるかぎりではな、まさかそんなこたァねえってもんよ。・・それでもおっさんは、正真正銘の天使なんだ。おっさんよりも立派な天使がいるっていうなら、そんなことぬかす奴の顔が見てえや (同書、p302)

補註 サム・ウェラーがジョブ・トロッターに語る台詞。サムはコックニー(マイ・フェア・レディのイライザの英語)で話すはずだ。となると、私にはかなり聴き取りにくい英語だろう。日本語訳なら、弥次喜多の江戸言葉風に訳せば雰囲気が合うのだろうか。梅宮訳は雰囲気をよく伝えようとしていると感じた。
 つい最近では、「宝島」のジョン・シルバーはじめ海の男(兼業海賊者)たちの英語がコックニーで読まれていた(ちなみにスティーブンソンの紙の本ではコックニー発音を反映した綴りを採用していない。あくまでオーディオブックのナレーターが読みに工夫を凝らしているわけだ)。最初は全く聴き取れなかったコックニーであるが、何度も繰り返して聴き続けていると聴き取れるようになってくるのが不思議である。

**

ピクウィク氏はそう云って、「では皆さん、ごきげんよう」と別れの声をかけた。大勢の囚人から歓声があがった。もう一ぺん握手を交わしたくて詰め寄る者もあった。ピクウィク氏はパーカーさんの腕を引き寄せ、急いで獄舎を出たものの、そのとき、ここに入れられた日よりもずっと悲しく沈鬱な気分に襲われたのであった。ーーーああ、ピクウィク氏はなんと多くの、悲しく不幸な人間を置きざりにしてしまったか。(同書、p320)

補註 ピクウィク氏が債務者監獄を去る場面。

*****

********************************************