literature & arts

ディケンズ ドンビー父子(4)

2017年4月20日 木曜日 曇り

ディケンズ ドンビー父子 田辺洋子訳 東京こびあん書房 2000年

原作は1846年10月から48年4月まで月刊分冊形式で刊行され、表紙を飾った正式名は Dealing with the Firm of Dombey and Son, Wholesale, Retail, and for Exportation (卸し、小売り、貿易業「ドンビー父子商会」との取り引き手控え)

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「「希望」を頼むとするかな。うぉりーや。お互い、もう一度この世で会えるという「希望」をな。そいつをなるたけどっさり送っておくれ」「ああ、まかしとき、おじき。そいつなら嫌ってほどあるから、ケチケチなんてしないよ!」(同書、第19章、p311)

天測中の木偶の海軍士官候補生(同書、p313の挿絵)

補註 挿し絵は全て長年ディケンズの挿絵画家を務めた「フィズ」ことハブロット・ブラウン(Hablot K. Browne)による、とのこと。
 この挿絵のページを開いた途端に、ウォルター(=バルバドスに旅立つ前日)とその伯父(=独り残される老人)をフローレンスとスーザン・ニッパーが訪問する場面が予知され、思わず涙ぐんでしまった。
 「そんなバカなことがあればあるものだから(同書、p312)」・・というわけにはいかないのが私たちの現実の世界の姿ではある。それは認めるしかない。が、やはりディケンズ本の世界ではこうこなくてはいけない!

一瞬にして、ウォルターの魂からはあらゆる疑念や動揺の影がかき消えた。さながら、彼にはあの今は亡き少年(=ポール)のベッドの傍らで、彼女(=フローレンス)の無垢な訴えに応じているかのように思われた。彼(=ウォルター)がそこで目にした厳かな姿の前で、彼女(=フローレンス)の正に面影を、この追放(=ウォルターがドンビー氏に命じられてバルバドスへ派遣されること)に際して、兄(=フローレンスのお兄さん)として慈しみ守ろうと、彼女の素朴な信頼をそっくりそのまま大切にしまっておこうと、よもやその信頼をいいことに、彼女自身の胸中にないいかなる思いでも徒に吹き込むような見下げ果てたまねだけはすまいと、固く誓っているかのように。(同書、第19章、p317)

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