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古代、風は方神の使役する鳥形の使者であった

2016年2月4日 木曜日 曇り

かぜ(風) 以下、大野晋編 古代基礎語辞典 p333 角川学芸出版 2011年 より引用。

古代、風は息と同じで、生命のもとと考えられていた。その風は、各地方にいる風の神が起こすものと考えられていたので、行路などの安全のために風祭りを行い、風が荒れないように祈った。また、風が吹くのは恋人が訪れるしるしとも考えられていたという。風は自由にどこにでも行けるものであり、また、さまざまなものを運ぶが、香や音などのほか、人の消息なども伝えるものとされた。季節の変化をいち早く感じさせるのも風である。・・・一方、風の邪気によって起こされると考えられた病気は、今日の風邪のほか、中風など、主として神経系の疾患をいった。

・・・夕されば 風{加是}吹かむとそ 木の葉さやげる <記歌謡二一>
・・・おき(息)そ{嘆息}の風{可是}に霧立ち渡る <万葉七九九>

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以下は白川・字統 p776-777より抄:
風 フウ かぜ・ふく・おしえ・ならわし
声符は凡(はん)。卜文の風の字形は、鳳形(ほうけい)の鳥の形で、その左や右上に声符として凡の形を加えていることがある。冠飾をつけて、神聖な鳥の形にかかれている。
卜文・金文には風(虫)に作る字形はない。風を八風に分かつことは、卜辞にみえる四方の方神と、その使者たる風神の名に起源するものと思われる。・・・山海経にみえる神々には、「四鳥を使ふ」のように、鳥形の神を使者として使うものが多い。卜文の風が鳥の形、それも鳳(ほうおう)の形でしるされているのは、風はその神鳥の羽ばたきによって起こると考えられていたからであろう。・・・このような鳥形風神が、いまの風の字形に移行した時期は明らかではないが、秦の会稽刻石(かいけいこくせき)には、篆文と(てんぶん)と同じ字形が用いられている。風を、天上にいる竜形の神が起こすものと解したのであろう。卜文においても、雲や虹(こう)などは、みな竜形の神とされていた。
風の用義・・・風がもと方神の使役する鳥形の使者であること、方神の意を受けて、これをその地域に宣示し風行させるものであること、これによってその地域の風土性が特色づけられ、その土俗が規定されるものであるという観念が、古く存していた。これによってその風土・風俗が規定され、風光・風物・風味が生まれ、その地に住む人の性情にも深く作用して、風格・風骨を形成するとされたのであろう。それが歌詠に発するものは風、すなわち民謡である。風の字のもつ多様な訓義は、このような古代風神の観念から、おおむねこれを解することができる。風邪のごときも、この神によってもたらされる神聖病であった。風は自然と人間の生活との媒介者であり、その生活の様式を規定するもので、そのような営みを風化といい、流風という。(白川、字統、p776-777)

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「おか」に対応するいろいろな漢字:

以下のページの数字は白川・字統の該当ページ。解説は白川・字統より抄。

丘 p178 おか・はか キュウ 墳丘の象形。孔子の名は丘。
岡 p305 おか コウ 土笵(どはん)に火を加えて高熱で焼成すること岡という。・・・岡とは赤土色の焼きかためられた鋳型をいうのが原義。
阜 p767 おか・おおきい・さかん フ 神梯(しんてい)の形。神が陟降(ちょくこう)するときに用いる梯(はしご)である。この部に属する字は、神の陟降する聖地に関するものが多い。
陸 p908 おか・くが リク・ロク 坴(りく)は神を迎える幕舎(ばくしゃ)の形。阜(ふ、阝)は神が陟降する神梯(しんてい)の形。神様の前にその幕舎を設け、神を迎え祀るところを陸という。およそ山上の高平のところは、神を迎え祀るに適したところで・・・・・・以下略・・・

補注:陟降 ちょくこう 昇り降り。天地を往来すること。(WEB字書より)
 陟 チョク 登ること

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