歴史のこころ

金融資産を守る方法

2010年5月7日

「自分の金融資産を守るために国民が取りうる手段は次の3つです。 1.国際分散投資 2.不動産投資など(金融商品以外のモノ) 3.タンス預金」と、O氏がメール配信で述べられている。

本当にそうであろうか。以下に私の考えを述べてみたい。

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他国への投資、これは預金封鎖されて価値がゼロになる危険がある。たとえば故国日本とイギリス・アメリカとが戦争・対立する、などという場合には、日本国籍の人の英米での銀行預金口座は封鎖されるのは当然だろう。故国からは、敵国に投資したことは、故国に対する裏切り行為であったとも言われよう。

しかし、私は、預金封鎖されて損をする危険があるから良くない、ということではないと思う。日本人が、たとえばイギリスの銀行にお金を預けるとする。これも、預金あるいは「貯金」というのが普通かもしれないが、一種の投資ともいえる。イギリスに投資するのは、イギリスに投資すれば儲かるあるいは安全であるという理由の人々も多いであろうが、明確に目的として意識しているか否かにかかわらず、基本的にはあるいは経済学的には、イギリスという国あるいはイギリスという国の行うことに賛成して投資しているという意思表明になっている。

このような観点から、私は戦争をする国には投資してはならないと思う。私の投資が戦争を奨励する投資ではないとしても、結果として当該国の戦争遂行に役立つ・後方支援するお金の使い方になってしまうからだ。

このような純粋な考え方から、わたしはカントのお金の使い方に賛成できない。大学教授の彼は、イギリスに投資して年利7%の高い配当を得ていたという。おかげで彼の晩年は貧乏な大学の先生という境遇からは若干改善され、質素ながらも落ち着いて午後のお茶を楽しめる暮らしであったとのことである。

7つの海を支配する大英帝国の興隆期にイギリスに投資することは、経済学的には賢いことだし、カントの貧しい生い立ちと経済的に恵まれない大学教授という職業を考えると、後世の人々が彼の投資行動という局所的な面を非難することは決してフェアではないと承知の上で、あえて私見を述べさせていただく。すなわち、奴隷やアヘンの貿易、アヘン戦争やセポイの乱などの戦争・武力行使など17世紀からのイギリスの行いの歴史を簡単に思い浮かべただけでも、私はカントにはイギリスへ投資して欲しくなかった。

基本的には、庶民のなけなしのお金、たとえば老後の生活資金のための蓄えなど、失ってはならないお金は、他国に投資すべきではなく、自分の国に、まずは「貯蓄」すべきである。

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おカネの価値が不安定となることが予想される時期に、金(きん、Au)や不動産など金融商品以外のモノを買うというのは、考え方としては正しい。

実際、最近の中国はこれから米ドルが不安定になるのを見越して、鉱物資源などのモノをどんどん買って投資していると報道されている。抑えられてきた金(きん)の価格も最近では高値を更新するようになってきた。

しかし、普通の国民として、非常時のために金(きん)を購入して自宅に持っておく、などということは現実的ではない。購入証明書の紙切れをもらって本物をあずけておくなどという形態では、非常時のために金を買ったということにならない場合が多々考えられる。その証明書はやはり「金融商品」のようなものである。いつ兌換不能になるかは、普通の人には予測できない。

いわゆる不動産「投資」も、庶民の手の届くものではない。親から受け継いだりするのではなくてゼロから始めて自分の力で、たとえば東京に小さな土地と一棟のビルを購入して資産運用して危険を伴わないような「普通の国民」が、どれだけいることであろうか。普通の人にも手が届くのは、いわゆる不動産「投資」ではない。

不動産「投資」と少し似ていて、意味合いが大きく異なるものに、小さな「兼業大家さん」がある。これは、不動産「投資」ではなく、貯蓄の別形態と考えられる。

自分が額に汗して稼いだお金で、老後の蓄えのためにわずかな貯金の代わりとして、値のこなれた中古(20-30年ぐらい前の建物になろう)マンションの購入と賃貸運用(いわゆる小さな兼業大家さん)という形である。これであれば、地域社会の中でお金を上手に回すことに貢献できる。仲間・地域の人たちのために良質の住居を提供することにお金を役立てることができる。人々の暮らしの質の維持ないし向上にもつながりながら、お金が働いてくれている。老後の生活のための蓄えとして、いわゆる金融商品と比べて比較的安全性の高いものであると思う。

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「タンス預金」に到っては、無意味である。O氏はいったい何を想定してこのようなことを推奨しているのであろうか。貯蔵価値としてのお金が、「タンス預金」ということであろうが、お金の本来の働きは交換価値としての働きである。世に出回って使われない限り、お金は、交換価値すなわち貨幣としての役割を果たしてくれない。しばらくお金に冬眠させて、お金の価値が高まったところを見計らって目覚めさせて働いてもらおう、というような発想のようだが、現実には眠っている間にお金の価値が高まる保証がない。皆がタンス預金をすればお金が足りなくなって不況が深まる。社会が不安定になり、福祉は削減され、戦争の危険も高まる。世の不景気をさらに助長するようなアドバイスは受け入れるわけにはゆかない。

また、タンス預金を何時とりだしてきて使えばよいか、その潮時を適切に判断することは、普通の人には無理である。世の推移がどのように進むか上手に予言できる人(すなわち普通の国民でない人)でない限り、タンス預金では自分の「金融資産」を守ることに全くつながっていないのである。

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以上、2010年5月7日付けWEBページより再掲

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