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顕微鏡で見るミクロの世界

2016年10月26日 水曜日 晴れ

山村紳一郎 顕微鏡で見るミクロの世界 仕組み・使い方・撮影テクニックがわかる 誠文堂新光社 2012年

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視野数のちがい
顕微鏡用接眼レンズの視野の広さは、視野を制限している枠の直径をmmで表し、「視野数」という。対物レンズの倍率で視野数を割った値が、実際に見えるおおよその広さ。視野数の大きな広角タイプだと、見える範囲が広くなる。(山村、同書、p25)

接眼レンズの性能
見える範囲(というか角度)と、のぞきやすさも重要。実際に観察する時は、より広い範囲が見えた方が便利だし、のぞきにくいレンズでは疲れて観察が快適でない。・・楽しさがより重要な要素になる趣味の顕微鏡では、特に重要だと思う。(山村、同書、p24)

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無限遠補正光学系
対物レンズで像を作らずに、接眼レンズとの間に別の「結像レンズ」を入れ、これで像を作る光学系。対物レンズからの光が平行光線になるので、像までの距離を気にしなくていい。このため、途中にいろいろな補助装置を取り付ける設計が容易になる。(山村、同書、p26)

補注 1995年当時のことだろうか、ニコンの正立顕微鏡は未だ無限遠補正光学系ではなかったのだ。それで接眼レンズでピントが合っていても、3眼鏡筒部で写真を撮影する場合には望遠鏡を差し込んでピント合わせを行わなければならなかった。今から考えると実に大変な回り道だった。その頃から、ニコンもオリンパスも次々と無限遠補正光学系に替わっていったのだから、もう少しだけ待ってから無限遠補正光学系の顕微鏡を購入すべきだったかと思う。少し早まって後悔が残った。「研究用顕微鏡は、ほとんどすべてこのタイプになっているし、教育用にも増えてきている(山村、同書、p26)」とのことで・・この思い出も「今は昔」の話になってしまった。
 もう一つ、思い出話を付け加えるなら、その「有限遠補正光学系」ニコン生物顕微鏡は、本体が鋳物でできていた。実にがっしりと重かった。その後すぐに鋳物製のものは製造中止となってしまったとのこと。部品供給の都合から、光源ボックス(これはプラスチック製)が壊れてしまったら、もはや修理はできないと宣告されていた。幸い、何十年も経っても壊れないで働いてくれた。恐らく今もTY大学の研究室で使われていることと思う。最高級のプランアポクロマート対物レンズセットを装着している私の愛機・鋳鉄製顕微鏡である。

補注 ウィキペディアによると・・・ https://ja.wikipedia.org/wiki/光学顕微鏡
「これに対し1990年代から普及してきた無限遠補正光学系においては、対物レンズは中間像を結ばず平行光線を射出し、鏡筒内の結像レンズ(チューブレンズ)で中間像を結ぶ。平行光線となっている部分の長さは自由に変更でき、またハーフミラーなどを挿入してもゴーストや収差が発生することがない。なお、有限系と無限系の対物レンズはその機能が全く異なるため、互換性はない。」とのこと。つまり、昔の高価な対物レンズを、今の安価な鏡筒に取り付けて高級化を図ることは不可能、ということになる。

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補注 私の経験では、顕微鏡を覗いた時の「気持ちよさ」は、実にはっきりわかる感覚である。コールドスプリングハーバーにツメガエルの発生学実験のやり方を習いに行ったとき(1995年)、初めてツァイスの実体顕微鏡を覗いてその気持ちよさに驚いた。視野が広くてよく見えるのである。お蔭で細かい実験もとても快適に行えた。考えてみるに、これは恐らく、視野数に大きく依存するようだ。だから、冷静に考えてみるとツァイスだからよく見えるという訳ではないはずだが、なぜかそれ以来、私はツァイスのファンなのである。ツァイスのプラネタリウムも好き。

補注 視野数 WEB情報によると
「接眼レンズで見ることができる中間像の直径のこと。通常mmで表される。中間像とは対物レンズによって作られる像で、接眼レンズ内にある視野絞りという円形の金属の輪の部分にできます。この視野絞りにあいている輪の直径を視野数と呼びます。」http://www.wraymer.com/howto/glossary.html

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補注 顕微鏡から入る「科学研究入門」
 この本は、一般の読者向けの顕微鏡案内実用書として、素敵な本である。昨夜、一息に通読してしまった。専門的な研究者向けの顕微鏡に関する本は5,000円以上もするような高価なものが少数あるきりだ。それに比して(ただし高価な本に関しては価格しか見ていない)、この本は、顕微鏡大好きなサイエンスライターの書かれた実用書である。中学・高校生が買える値段の本だ。すぐに試してみよう、という気持ちに導かれる良書だと思う。
 私の場合は、何十年もプロとして生物顕微鏡を覗いていて論文投稿写真も数多く撮影し、学生や若い研究者に(いっしょに顕微鏡を覗きながら)顕微鏡観察の手ほどきもしていた。だから、本来ならこの本に書かれているようなことは知っていて教えてあげる立場だったのである。しかし昔は、このような良書が手元になかった。また指導して下さる先達も得られなかったのだ。なので、最初から何にも良く知らないでぶっつけで顕微鏡に立ち向かいながら、何とか仕事をこなしてきたのである。
 一方で、最近のデジタル技術の進歩は大きく、私の現役時代なら100万円以上もしたような撮影機材が、今では数万円程度でそろえられるようになっている。驚きである。現在の中高生の方にとって、便利な安価な機材を駆使することはむしろ当たり前かも知れない。59歳にして中高生に遅れを取り始めたことに気付かされる。
 そんな私にとっては、技術的な手ほどきとしてこの本は簡便にまとめられていて大変にありがたい。59年の至らなさを知り、60歳からの科学研究(再)入門である。

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