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オランウータンが腹ペコになるボルネオ島の強風化赤黄色土 藤井一至 100億人を養う土壌を求めて(3)

2019年1月5日 土曜日 曇り時々雪(時々激しい吹雪き)

上の写真は、収穫を終え、秋深く黄葉しているブドウ畑の11月。畑の土は、若手土壌である。ごく普通のいわゆる褐色森林土(若手土壌)の上に、15〜30cmの腐植に富んだ黒い土(表土)が載っている。(この地域は「黒ぼく土」の分布地図では黒ぼく土のない場所とされている。また、明らかに火山灰土ではない。)


藤井一至(ふじいかずみち)土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて 光文社新書 2018年

7) 粘土集積土壌 

北米大陸のプレーリーに広がるチェルノーゼム遅滞を北に外れると、空気も土も湿気を帯びはじめ、やがて森の木々が育つようになる。・・木漏れ日を受けて、地面には草も生い茂る。・・その下にできるのが、粘土集積土壌だ。(同書、p101) 

雨が増えて森ができる環境に変わると、土も少しずつ酸性に傾く。・・森の生物活動が活発になり、風化を促進するようになったことの表れだ。土が〝劣化〟する途中段階では、地表の粘土粒子が雨によって下へと流される。粘土集積土壌は、砂の多い表土と粘土の多い下層土の二層構造を持つ。少し酸性なのは玉にキズだが、下層の土は依然として肥沃だ。耕して混ぜこんでしまえば、豊かな牧草地や小麦畑に姿を変え、私たちに乳製品やパンを提供してくれる。チェルノーゼムとともに重要な〝朝ごはん土壌〟だ。

粘土集積土壌には、チェルノーゼムよりも水がある。・・一つの土に極端な二層構造が生まれるのには、水の動きが関係している。(同書、p102-103)

 粘土集積土壌は、亜熱帯・熱帯にもある。こちらはアカシアやバオバブの木の点在する森林サバンナ、サファリパークの世界だ。雨季と乾季をもつモンスーン気候や地中海性気候に多い。・・粘土集積土壌を耕して「盛り土」をすれば、通気性や排水性のよい土に変わる。(同書、p105)


8) ひび割れ粘土質土壌

 ・・ひび割れを起こすのは、粘土が多い土の特徴だ。土の中の粘土の割合は60パーセントもあった。ネバネバした裏山の土ですら粘土は30パーセント。その2倍だ。粘土質の土壌は、水や養分を多く保持している。その分、肥料やスプリンクラーのコストが少なくて済む。この肥沃な土をひび割れ粘土質土壌という。(同書、p108)


 粘土の性質を調べてみると、スメクタイトと呼ばれる伸び縮みする粘土が多い。(同書、p108) 

スメクタイト: マイナス電気が弱く粘土どうしの結合力が弱い。その隙を狙って水が入り込む。スメクタイトは水を吸収すると膨張し、乾くと脱水されて収縮する。(同書、p44)


 ひび割れ粘土質土壌は、湖の底だった場所と玄武岩地帯に多い。スメクタイトは日本の水田にも多い粘土だが、よほど乾燥しないと地割れは起きない。玄武岩と乾燥、二つの条件を満たすのがインドだ。(同書、p109)


9) 塩辛い砂漠土


1年のうち9か月以上のあいだ土が乾き、植物がほとんど育つことができない乾燥地の土をまとめて裁く土と呼ぶ。(同書、p110)


 農業を行うには雨が少なく灌漑が不可欠だ。(同書、p111)


 砂漠土の塩類集積は、灌漑農業に依存した古代文明(メソポタミア文明やインダス文明)が破綻した要因となったとさえいわれている。(同書、p113)


 ビニールハウスも土壌の塩類集積が問題: 大量の肥料を撒いて野菜を生産する温室栽培では、水の蒸発も速い。(同書、p113)


 塩辛い砂漠土だが、水さえ与えれば、肥沃な土に様変わりするものもいる。同じ乾燥地出身の土にはチェルノーゼムやひび割れ粘土質土壌もいる。・・砂漠土は、可能性とリスクを合わせ持っている。(同書、p113-114)


10) 強風化赤黄色土


表土が真っ白だ。長い時間をかけて粘土が下へと流され、表土には白い砂だけが残された。・・粘土は下層に移動して集積する。
 ・・熱帯雨林では落ち葉や枯死した根の土壌への供給量は多い。しかし、微生物(とくにキノコ)の分解能力が温帯の森よりも格段に上がるために、落ち葉や腐植は速やかに分解される。結果として腐植が蓄積しにくい。(同書、p118)


 ・・熱帯土壌が薄いというのは落葉層、腐植層に限った話であって、土そのものは深い。日本の山なら1メートルも土を掘れば岩石面に到達するが、熱帯雨林では数十メートルの深さまで土が続く。高温で湿潤な熱帯雨林では、活発な生物活動が岩石の風化を加速するためだ。 巨大な樹木は大量の栄養分を吸収するために、土へ多量の酸(水素イオン)を放出する。土だけで足りなければ、岩も溶かす。1年間に0.3ミリメートル厚の土ができる計算だ。これは、日本の3倍、世界平均の5倍だ。結果として深くまで風化した土壌が残る。・・過度の風化によって強風化赤黄色土が広がるボルネオ島では、栄養豊かな土のあるスマトラ島よりも森のフルーツ生産量が少なく、それを食糧とするオランウータンのサイズがひとまわり小さい。(同書、p117-118)

11) オキシソル(酸化物オキシ+土壌ソル): あらゆる栄養分が失われた末に、アルミニウムや鉄さび粘土だけが残った土。

オキシソルでは、多量の鉄さび粘土が有機酸を吸着して取り去ってしまう。・・破壊力の小さい微炭酸水は、鉄さび粘土やアルミニウムを溶かすことができないかわりに、相方のケイ素を溶かして流し去る働きが強い。結果として、鉄さび粘土が集積した土となる。(同書、p125) そもそも鉄が多い材料をスタートラインとし、さらに鉄さびを濃縮する土がオキシソルだった。鉄さび粘土は接着剤となって土の粒子の団結を高めるため、粘土の塊のような土となる。(同書、p125)

 粘土が多いなら肥沃となりそうなものだが、オキシソルは養分を多く保持できない。(同書、p125)

12)黒ぼく土(くろぼくど)

黒ボク土には、バーミキュライトのようなきれいな結晶を持つ粘土が少ない代わりに、極めて反応性の高いアロフェンと呼ばれる粘土が多い。この粘土が腐植と強く結合するために、蒸し暑い日本でも腐植は数千年も保存される。(同書、p134)

チェルノーゼム、ひび割れ粘土質土壌よりも多くの腐植を含む黒ぼく土だが、違いは酸性だということだ。しかも、腐植を吸着する粘土(アロフェン)は、同時に、リン酸イオンも強く吸着する。・・これでは肥沃とはいえない。(同書、p134)

補註 藤井さんのこの本のこの個所では「黒ぼく土」のナゾが十分に解かれていない。同書のp127の図58では、黒くない若手土壌の層を挟んで、黒い土(黒ぼく土)の層が分かれている。こんな層がどうして出来上がるのか? 実は、私が耕している畑の土にも、あるいは市道の造成で切り通しができた断面などでも、その他随所でこんな層形成が見つかる。不思議なのである。数年前に通読した山野井徹さんの「日本の土 地質学が明かす黒土と縄文文化(築地書館 2015年)など、もう一度読み直してみたい。

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補註 土とは直接関係ない話題ではあるが・・

「黒ぼく土で飯を食う」(藤井、同書、p127)「腐植を多く蓄積する黒ぼく土は、大気中の二酸化炭素濃度を下げて温暖化を緩和する仕事をしてくれている」(藤井、同書、p129)・・これらの記述は、私たち科学者から見ると、つまり純粋に科学的見地からは、明らかに荒唐無稽 irrelevant である。恐らく、藤井さん本人もそれはよくわかっているだろう。

が、1981年生まれの30歳代(1981年は私が大学を卒業した年である、だから私の24歳下の後輩)、若手研究者の藤井さんが「飯を食う」(=つまり、学術研究者として研究費を獲得し、かつ世間並みの給料のもらえる定職につく)ことがどんなに困難であるかという記載が、本書で幾度もでてくることを鑑みると、無碍には、叱りつけにくいのである。

前野ウルド浩太郎さん著「バッタを倒しにアフリカへ(光文社新書)」を読んだ際にもそんな記載が散りばめられていて、先輩科学者としては悲しかった。まさに「100億人を養ってくれると期待した土(の研究で)は、私ひとりすら食べさせてくれない」。(藤井、同書、p129) つまり、大望を抱いて研究者として励んでも、その遠い目標への道程に対しては研究費として支援されることが期待できない。成果が得られるまでは定職として暮らしの安定を得ることも難しい。ある意味では不必要な不条理な 窮乏が若手研究者に強いられている。大望を遂げんとする研究者を取り巻く環境は理想からほど遠い。

私も研究を続けて十余年、やっと35歳で初めて定職を得られたのだし、その後も2度も転職せざるを得なかった。そんな、苦労の多かった研究者生活のことなど思い返す。つまり、私自身も同じように通ってきた道ではある。けれど、自分たちの世代よりも次の世代の人たちに少しでもよい暮らし・よい環境をと営々と励んできたのに、私たちの世代と同じようにあるいはそれ以上に苦しい窮乏を現在の多くの後輩たちに課している社会に住んでいる・・そんな、力及ばない先輩である(あった)ことが、本当に残念だ。

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