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四季咲き薔薇のトランスポゾン

2019年3月9日 土曜日 晴れ

岩田光 四季咲きの「謎」が解けた 千年余の昔、「動く遺伝子」が引き起こした、たった1回の突然変異 pp40-48 特集・薔薇の物語 ビオストーリー vol 25 誠文堂新光社 2016年6月発行

四季咲きと返り咲きは本質的に違う

現代の四季咲きバラは、次のようにして連続的に花が咲く。 ① 初夏になりシュートが伸び始める、 ② 数節伸びて花芽に分化し花が咲く、 ③ 開花後にその下部の葉の付け根から速やかに脇芽が発達して同じように花芽になる。温度条件が適当であれば、これを繰り返すことで次々に開花するのである。

返り咲き性と四季咲き性の違いは、実生を育てた時にもっと劇的に観察できる。一季咲き性や返り咲き性の種子を秋に蒔いても翌春に開花することはないが、四季咲き性のバラの実生はちゃんと翌春に開花する。つまり、四季咲きというのは、返り咲きの延長などではけっしてなく、それとは独立したまったく別の現象である。このような明確な認識を持てたことが、後の遺伝子の探査に役に立つことになった。(岩田、同書、p41)

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補註 アイキャッチ画像は、私の畑の薔薇から。花弁はハート型。

カタイエンシスは房咲きで、花弁の形がハート型である。一方、キネンシスは単生咲きで花弁が尖っている。(岩田、同書、p44)

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たとえばハーストは次のように書いている。「矮性、半八重の花、四季咲き性はすべてメンデル形質で、最初と最後の形質(=つまり、矮性と四季咲き性)は同じ染色体上で密接にリンクしている」。・・四季咲きバラが矮性となるのが必然なのであれば、人間の庇護下ではいざ知らず、自然界で生き残るのは難しい。・・野生の四季咲きバラがないという理由は、・・むしろ当然の話ということになる。(岩田、同書、p45)

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食香バラ・2018年6月、私たちの畑で開花したものを撮影。紫枝(ズズ)も豊華(ホウカ)も「四季咲き」ではないのだが、北国の所為だろうか、いくらでも、のべつまくなしに返り咲いているようだ。

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シロイヌナズナのTFL1遺伝子(terminal flower 1): アラビドプシス(シロイヌナズナ)で茎頂が花芽分化せずに茎頂であり続けるために必要な遺伝子で、これが働かなくなると茎頂は花芽になり成長は止まり矮性となる。(同書、p45)

もう一つ重要な手がかりがあった。それは、四季咲きバラでは、数%が突然変異を起こしてつるバラになることだ。こんな高率は、矮性突然変異が何らかの動く遺伝子(トランスポゾン)の作用で引き起こされていると考えないと説明がつかない。(同書、p45-46)

・・1年ほどで探していた遺伝子が見つかり、日本での古くからの四季咲きバラの呼称である「庚申薔薇」に因んで、KSNと名づけた。(岩田、同書、p46)

イチゴでも、この同祖遺伝子の不活化が四季咲きの原因となっていること、ジベレリンによって制御されていることなども判明した。(岩田、同書、p46)

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そのKSNtr(トランスポゾンの入ったKSN遺伝子)はどこから来たのか? : 中国の野生バラのKSN遺伝子の塩基配列を調べて比較すると、KSNtrはスポンタネアに由来することが明らかになった。・・調べた限りでは、すべての四季咲きバラも同じ塩基配列をもっているので、この突然変異はたった1回だけしか起きていないと思われる。つまり、四季咲きバラはそのすべてが「兄弟姉妹」であるともいえる。

四季咲きは劣性の形質なので、二倍体(=2n、n=7)のバラでは二つのKSNともにトランスポゾンが入り込んでいないと四季咲きにならない。・・・(中略)・・・KSNtr/KSNtrの四季咲きのバラは、その他の遺伝子を比べると、多くがスポンタネアとカタイエンシスとの雑種だった。スポンタネアとギガンテアの雑種と考えられてきたものにも必ずカタイエンシスの血が入っていた。・・・(中略)・・・ 四季咲きに突然変異したスポンタネアが栽培化後カタイエンシスと交雑したと推定することもできるが、スポンタネアとカタイエンシスが自然交雑し、交雑によるストレスによってトランスポゾンが動き四季咲き突然変異が起こったと考えることもできる。(岩田、同書、p46-47)

もう一つ四季咲き性で強調したいのは、スポンタネアもカタイエンシスも旺盛な成長力を持つバラであることだ。・・このように旺盛な活力をもつバラで突然変異が起こったからこそ、今見るような四季咲き性のバラが生まれたのである。(岩田、同書、p47)

References:

Iwata H et al. The TFL1 homologue KSN is a regulator of continuous flowering in rose and strawberry. The Plant Journal 69: 116-125, 2012.

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補註 つるバラと四季咲きバラの交配に関して、思考実験をしてみる: 母ノイバラと父四季咲きバラを交配させると、KSNtr/KSNw つまりヘテロとなるので、子の代(F1)ではすべてがつるバラとなる。従って、秋に種を播いても翌年の春に開花することはない。数年を経てヘテロ株 KSNtr/KSNw が樹立されたとして、これを母として父四季バラと交配するとできるタネ(F2)は、半分が KSNtr/KSNtr、半分が KSNtr/KSNw となる。これを秋に播種すれば、発芽したものの半分は四季咲きとなっているので、翌春の一番花が花開くことになる。

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レディオヴシャーロット・2018年8月撮影。花弁はやさしいハート型。このバラは「返り咲き」なので、四季咲き KSNtr/KSNtr と違って、KSNtr/KSNw or KSNw/KSNw 。

補註 現在のところ私たちの畑に植わっている「四季咲き」バラはマイガーデンとレッドレオナルドダビンチの2本である。マイガーデンは花弁が剣先、レオナルドダビンチはハート型である。

わが家のマイガーデン・四季咲き。わが家では数少ない剣弁の花。2018年8月撮影。
わが家のマイガーデン。ウェブによると「花の開き始めは剣弁高芯咲でその後、咲き進むにつれて中心部がロゼット咲となり、アンティークな雰囲気をかもし出します。花弁数40~50枚。国際バラのコンクールでも数々の賞を受賞した品種です」とのこと。
わが家のレッドレオナルド・ダ・ヴィンチ。四季咲きFLフロリパンダローズ(メイアン社2003年作出)。我が畑で2018年8月撮影。このクリムソンレッドはビロード(ヴェルヴェット velvet)のようだ。この写真では色彩の感触を適切に表現できていない。要・撮影修行(あるいはカメラ道楽の方向へも進むべき?)。
わが家のピンク・レオナルド・ダ・ヴィンチ。メイアン社1993年作出。私たちの畑では2018年にやってきた新顔。家人が淡い色の花を好むのでこのような華やかな花はほとんど植わっていないのだが、ピンクとクリムソンの両レオナルドだけは例外。2018年9月初旬撮影。
わが家のレオ。愛称:ピンクレオ(フロリパンダつるバラ〜返り咲き)。2018年9月初旬撮影。

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