culture & history

ウクライナの政変 その2

 

2014年3月6日 木曜日

 

ウクライナの2014年2月クーデター その2

 

法によらない暴力的な政権転覆が行われれば、多くの人民に危害が及ぶ。

 

前回のWEB記事ではウクライナ憲法の条文を引きながら、法の支配下で平和的に緩やかに良い方に向けて進んでいって欲しいことを述べた。私の願いである。

 

しかし、現在のウクライナのようにすでに憲法が守られていない状況において、憲法を懐かしみながら「本来こうするべき」なのだが、というような議論をするだけでは、非現実的であり建設的でもない。「それでは現在の最善手は何か?」という問いかけが喫緊の必要課題である。

 

このような局面でもっとも大事なのは、何が起こっているかをできるだけ正確に大局的に把握しすることに努めることであろう。できるだけ多くの情報を引用しながら、ウクライナの現状に関して調べてゆきたい。

 

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日本の代表的なマスメディア、たとえばNHKや読売・朝日をはじめとする大手新聞などの情報には多くの方々が日常的に接しておられると思う。が、それらのメディアから得られる情報は多くの場合に同じソースたとえば記者クラブでの公式発表や共同通信からの配信などひとつの情報源から派生した同一の記事となる。そのため、現状理解を深めるためにはインターネット・雑誌・単行本などからの情報を通じて別の視点からどのように見えるかも含めて検討してみることが必須である。

 

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2014年3月7日 金曜日

ということで、今日は、以下に簡単に日本語で読めるネット情報源をいくつか紹介します。どうぞ読んでみてください。

 

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情勢を冷静に正確につかみたい。そのため、できるだけ多面的からの情報をもとに分析するような記事からスタートするとよいと考えます。ここでは、アプローチしやすい情報源としていくつかを紹介いたします。

1.田中宇の国際ニュース解説

田中宇(さかい)さんの記事からは大変多くを学ばせていただいている。今回のウクライナ情勢に関しても以下の記事がよくまとめられている。

田中宇 危うい米国のウクライナ地政学火遊び 2014年3月5日http://tanakanews.com/140305ukraine.php

田中さんはこの地域の地政学的な動向に関しても以前から多くの記事で詳しく分析されていて大変勉強させていただいている。

田中宇 プーチンを敵視して強化してやる米国 2011年12月19日http://tanakanews.com/111219russia.php

田中宇 ウクライナ民主主義の戦いのウソ 2004年11月30日http://tanakanews.com/e1130ukraine.htm

田中宇 コーカサス安定化作戦 2004年4月29日http://tanakanews.com/e0429caucasus.htm

田中宇 ロシアの石油利権をめぐる戦い 2004年3月18日http://tanakanews.com/e0318russia.htm

田中さんの記事はよくまとめられていて読みやすく、考察の根拠となるインターネット情報ソースが記載されているので簡便に情報源を辿ることができ、大変有難く読ませていただいております。

以下、少し長くて申し訳ありませんが、2004年11月30日の田中さんの記事から引用させていただきます。10年後の今回の情勢を理解する上でも大変参考になる記載です。 <以下引用> http://tanakanews.com/e1130ukraine.htm

▼分裂して損するのはウクライナ人自身

ユーゴスラビア、グルジア、ベラルーシ、ウクライナでアメリカが政権転覆を企てた背景には、ロシア寄りの政権を倒して欧米寄りの新政権を作ることで、ロシアを封じ込める意図があるというのが一般的な見方だ。

ウクライナもユーシェンコが大統領になったらNATOに加盟し、ロシアにとって軍事的な同盟国が脅威へと変質すると予測されている。また、これまでロシアの石油を欧州に輸出するために使われていたウクライナ国内のパイプラインも、アメリカが権利を持つアゼルバイジャンのカスピ海油田の石油を運ぶかたちに改められ、石油利権的にも重要な転換が行われると予想される。(関連記事

ユーゴスラビアとグルジアでは、政権転覆は両国の不安定な政情を安定させる効果もあった。ユーゴスラビアは、転覆前のミロシェビッチ政権の時は国際的に孤立していたが、コシュトニツァ政権になって国際社会に復帰した。グルジアでは、シュワルナゼ政権時代にアジャリア、南オセチア、アブハジアという国内3地域が分離独立して割拠する状態になったが、サーカシビリが政権について以来、これらの地域をグルジアに再統合する強硬策が展開され、国情の安定化が図られている。

ところがウクライナの場合は逆に、今回の政権転覆の試みは、これまで統一されてきた国内を東西に分裂させて不安定にする結果を生みそうである。ウクライナは、ロシアに接する東部にはロシア系住民が多く、宗教も正教会キリスト教(ウクライナ正教会、ロシア正教会)であるのに対し、ポーランドやルーマニアに接する西部ではウクライナ系住民が多く、宗教もカトリック系のキリスト教である。東部は親ロシア感情が強く、西部は反ロシア感情と親ヨーロッパの感情、それからウクライナ・ナショナリズムの感情が強い。

ロシア系住民は人口としては全国民の22%しかいないが、ソ連時代から公務員などの要職にはロシア系が多く、公用語もソ連崩壊後はウクライナ語になったものの、実際にはロシア語が広範囲に使われている。冷戦後のウクライナでは、東部と西部、ウクライナ系とロシア系を分裂を回避しつつ、外交的にもロシアとEUの両方に配慮するかたちでやってきた。

ところが今回の選挙では、野党のユーシェンコは西部が地盤で、ウクライナ西端の町リヴィフ(リボフ)が牙城である。半面、与党のヤヌコビッチは東部が地盤で、東端のドネチクやルハンシクといった都市が牙城となっている。候補者が東西対立のかたちをとっているため、選挙の不正が問題になって以来、これまで回避されてきた東西の対立が一気に強まっている。東部の諸都市では、ユーシェンコが大統領になった場合に備え、東部地域がウクライナの中で自治を持った共和国になるための住民投票を行う準備を開始した。(関連記事

東部地域は炭鉱や鉄鋼産業が盛んな重工業地帯で、ユーシェンコが勝ってウクライナがEUに接近した場合、EUの安価な鉄鋼製品がウクライナに流れ込み、東部地域の産業が壊滅するおそれがある。そのこともあって、東部の人々は産業保護主義の強いロシアと親密な関係を持ち続けることを望み、ロシア系・ウクライナ系を問わず、ヤヌコビッチを支持する傾向が強い。(関連記事

ウクライナのような多民族の複合国家では、各民族のナショナリズムや地域主義の対立をできる限り回避することが国家の安定につながる。外交的には、ロシアとヨーロッパの両方とバランスよく関係を築くことが必要だ。ところが現在ウクライナで起きている紛争は、まさにその逆の不安定化を煽っている。今回の紛争によって損をするのは結局のところ、当事者であるウクライナ国民全体であることを思うと「民主主義」の幻想とは馬鹿馬鹿しいものであると感じられる。

<以上、 田中宇 ウクライナ民主主義の戦いのウソ 2004年11月30日http://tanakanews.com/e1130ukraine.htm  引用終わり>

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2.ロシアの声 日本語放送とWEBサイト http://japanese.ruvr.ru/

田中宇の国際ニュース解説でもときどき引用されることもあるロシアの声。その日本語サイトと毎日1時間ではあるものの日本語で放送がなされています。

私たちにとって日本語で海外情報を得ることができるのは大変簡便で有難いことです。ロシアのサイドに立っているのはもちろんのことですが、日本とロシアとの友好推進という大局的立場から作られているロシアの声日本語放送からは、とても多くの情報を得ることができます。特に、プーチン大統領やロシアの指導的立場にある人々が、日本人に対してどのようなメッセージを送りたいのか、それをつかむには大変便利なメディアのひとつだと感じています。

最新の2014年3月6日 14:36 の記事から少し引用します。 http://japanese.ruvr.ru/news/2014_03_06/268292761/

<以下引用>

クリミア議会、全会一致でロシア連邦への編入を議決

クリミア自治共和国最高会議はロシア連邦の構成主体としてのロシア連邦への編入を全会一致で議決した。16日に住民投票が行われ、自治共和国としての最終決定となる。

議会では次のように決定された。

   1、 ロシア連邦の構成主体として、ロシア連邦に加盟する

   2、 2014年3月16日に、全クリミア市民(セヴァストーポリ市民を含む)を対象とした住民投票を実施する。次の二択をめぐって住民投票が行われる。

   1)あなたはクリミアがロシア連邦の構成主体としてロシアと合体することに賛成ですか?

   2)あなたはクリミア自治共和国1992年憲法の効力の復活、ウクライナの一部としてのクリミアという地位に賛成ですか?

http://japanese.ruvr.ru/news/2014_03_06/268292761/

<以上、引用終わり>

私が思うに、前回の私のWEB記事で紹介したウクライナ憲法の条文によると、クリミア自治共和国最高会議はウクライナ憲法の規定の支配下にあるため、ウクライナ憲法の条文に照らし合わせてみれば、上記のようなロシア連邦への編入を議決する権限がクリミア自治共和国最高会議の権限の範囲内にあるとは到底思われません。むしろ、明らかにこのような分離をウクライナ憲法は条文で禁じています。ただ、現在のようにウクライナの政権がウクライナ憲法を踏みにじって成立している状態においては、従うべきウクライナ憲法は現状で無効のものとなっているわけであり、このような混乱状態においては、クリミア自治共和国最高会議が今回のような議決を行うことは現実的な妥当な行いとせざるを得ないだろうと判断されます。ここまでの私の議論がだらだらと歯切れが悪いのは、「憲法が守られない状態でどのような法的規範に基づいて行動すべきか」という実践的法学(?)を私が全く学んでも考えてもいなかったことによるものです。
ロシアの声にもどって、サイドのカラムにはウクライナ情勢に関連して以下のような電子投票の3択アンケート世論調査がなされています。

<以下引用>

「ウクライナ革命」についてどう考えますか?

a. 国民は愛想が尽きた政権を転覆する権利を持っているので、支持します。
b. 政権は選挙や国民投票で変更すべきものであり、革命は不法です。
c. カラー革命は、都合の悪い政権を除去するため、米国の手によるツールなのです。

<以上、引用終わり>

私が思うに、aとbは二律背反であるが、cの選択肢はbと背反するものではないので、厳密にひとつの答えを要求する選択問題になっていません。とはいうものの、ロシアの声が、日本語の読者に何を考えてもらいたいかが明確に示されており、興味深いものです。

さらに、2月28日, 17:39 http://japanese.ruvr.ru/poll/129271970/ の記事でアンケート結果が報告されており、以下の通り。

<以下引用>
「ウクライナ革命」についてどう考えますか? 世論調査に参加 676 人.
8% 国民は愛想が尽きた政権を転覆する権利を持っているので、支持します。
22% 政権は選挙や国民投票で変更すべきものであり、革命は不法です。
69% カラー革命は、都合の悪い政権を除去するため、米国の手によるツールなのです。
<以上、引用終わり>

世論調査に参加 676 人と少数であり、ロシアの声をフォローしている日本語視聴者(ほとんどは日本人か)というバイアスがかかるので、あくまで知的な参考意見としてとらえるべきですが、それにしてもこのような問いかけがメッセージ性をもって訴えてくるのは面白い。いわゆるメジャーなマスコミとは少し異なった視点から考えてみるための良いヒントです。

ロシアの声の日本語サイトでは、当然のことながら日本との友好を最優先しており、日露関係(サイトでは露日関係)が大切な記事となっています。少し長いのですが、3月6日付の記事から以下に引用します。 http://japanese.ruvr.ru/2014_03_06/268301526/

<以下引用>

米国の対ロシア制裁の呼びかけと日本

米国は、ロシアに対する経済制裁を呼びかけているが、日本が制裁に加わることは恐らくないだろう。なぜなら、対ロシア経済制裁を受け入れれば、日本の利益が損なわれるからだ。

日本の政治家ならびにロシアの専門家たちはこのような見解を示している。
茂木経 済産業相は、日本とロシアの関係は建設的な方向で発展しており、経済外交や資源外交で方針の変更はないとの考えを示した。ロシアの著名な東洋学者で、元駐 日ロシア大使のアレクサンドル・パノフ氏は、茂木経済産業省の発言に期待を表明し、過去の歴史を引用しながら次のように語っている。
「ソ連時代でさえ、日本はしぶしぶ西側の制裁に加わり、すぐに拒否した。ソ連崩壊後、ロシアがカフカスでテロ掃討作戦を実施した時、G7はロシアに対して制裁を発動しようとした。日本はその時、これはロシア国内の問題であり、ロシアは自国の力と手段でこの問題に対処するための権利があると発表した」。
パノフ氏によると、米国はウクライナ情勢をめぐるロシアの動きに対して制裁を科すよう呼びかけているが、日本にはこの呼びかけを支持できない大きな理由があるという。その一つは、政治的要素だ。パノフ氏は、次のように語っている。
「日本とロシアの指導者たちの間では、とても良好な関係が築かれはじめたところだ。安倍首相の戦略は、政治的ならびに個人的な良い関係、そして貿易経済関係の発展を通して、両国の協力関係全体のレベルを向上させることだ。日本はこのような形で2つの問題を解決しようとしている。1つは領土問題の解決策の模索で前進すること。2つ目は、日本の孤立状態からの脱却だ。なぜなら、日本と中国の関係は非常に悪く、韓国との関係も良くない。北朝鮮との関係は言うまでもない。重要な同盟国である米国との関係も、すべてが順調というわけではない。このような背景の中、ロシアと日本の関係はごく正常にみえる。私は、日本がこの関係を台無しにすることはないと考えている。」
パノフ氏は、経済的要素も重要だと指摘している。日本のロシア産石油・ガスの依存度は10パーセント未満だが、日本の原発停止を受け、ガスの輸入量は増加した。同分野では長期契約が見込まれており、契約破棄は日本経済に深刻な打撃を与える恐れがある。パノフ氏は、次のように続けている。
「日本はウラジオストク郊外の液化天然ガス(LNG)工場の建設にも投資している。また日本は、南回りの航路に代わって北極海航路を積極的に利用する計画だ。これらは全て、ロシアとの協力なしでは不可能だ。そのため、日本がロシアに対する制裁を自ら進んで支持するとは思えない。」
日本が対ロシア制裁を支持する場合、日本経済は大きなリスクを伴う。日本は何のためにそのような危険に立ち向かう必要があるのか?その理由を明確にする必要がある。米国は、ロシアがあたかもクリミア自治共和国を占領、併合し、ウクライナを分裂させたため、制裁を発動する必要があると主張している。だがそれは、嘘だ。
プーチン大統領は、ロシア上院(連邦会議)からウクライナ領内におけるロシア軍の使用について委任された。軍の派遣に関する決定はまだ下されていない。今後もこの決定が下されないことに期待される。クリミアに駐留しているロシア軍は、ウクライナとの協定に基づくものであり、秩序維持やテロ対策に取り組んでいる。ロシア軍は非常に友好的で礼儀正しく、地元住民は彼らを侵略者ではなく、民族主義者から自分たちを救い出してくれる救世主だと考えている。
プーチン大統領は5日夜、インタビューの中で、ロシアがウクライナの崩壊やクリミアをロシアへ併合する計画はないとの考えを表した。
プーチン大統領は、「私は、その領土に住む市民だけが、自由な意思表明や安全が確保された環境の中で自分の将来を決定することができ、そうするべきだと考えている」と述べた。またプーチン大統領は、もしコソボの人々やコソボのアルバニア人、また世界の多くの場所でそのようなことが許されたならば、国連の文書に明記されている民族自決権は今も存在しているはずだ。だが我々は、いかなる場合であってもそのような決定を誘導したり、そのような感情を過熱させるつもりはない」と語った。

http://japanese.ruvr.ru/2014_03_06/268301526/  <以上、引用終わり>

 

ロシアが日本語放送で日本語を理解する人々(すなわちほとんどは日本人)のために、政治的・経済的な視点からロシアならびに日本の利益と日露友好につなげてゆくためのメッセージを提案して放送しています。ロシアの地政学の専門家が予想し提案するとおりに日本の政治家や官僚が私たちの国を舵取りするかどうかその行方を予想するのは難しいところです。が、少なくともロシアの識者が何を望んでいるかは明らかに伝わってきます。

 

ロシアの声の日本語放送は、プーチン大統領が公式に日本人に何をどのように理解してもらいたいか私たちが理解するためにまずはスィッチを入れて聞いてみるべきメディアかと思います。対岸のユーラシア大陸の世界(この場合はモスクワ)からこのようなメッセージ性をもって訴えてくる放送に耳をかたむけるのは大変面白いことです。繰り返しになりますが、いわゆる日本のメジャーなマスコミとは少し異なった視点から考えてみるための良いヒントとなるでしょう。

 

もちろん、どんなメディアにもそれぞれのメディア固有のバイアスが高いのですから、私たちはどんなメディアに対しても鵜呑みにすることなく立場の異なった他のメディアからの情報とも比較検討しながら、自分の意見形成の参考となるように消化してゆかなければなりません。

 

以上、今回は、田中宇さんのニュース解説とロシアの声の日本語サイトとを紹介しました。長くなったので、サイトの紹介に関して今回はここで終わりにしたいと思います。

 

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付け足しになりますが、今回のウクライナ情勢を理解するためにもどうしても欠かせない視点は、歴史的な視点です。

たとえば、2013年のシリアで、遡っては2011年のリビアで、どのようなことが起きたのか。アフガニスタンで、イラクで、どのような戦争が戦われたのか。

アフリカの国々で何がこの100年ないし500年で起きてきたのか。ヨーロッパが何をしてきたのか。明治以降の日本にもう一つ別の進み方がなかったのか。

ウクライナ情勢をみていると、今私が読んでいる歴史本、ヨセフスのユダヤ古代誌の最後の巻あたりに出てくるガイウス・カリギュラ帝(第3代ローマ帝国皇帝 在位:37年- 41年)の暗殺直後のローマ混乱の詳細との部分的共通性をいくつも見いだします。

不思議なことともいえますが、人々が主人公である私たちの歴史のなかではいろいろな失敗を繰り返すことがしばしば経験されるのでしょう。それでも、失敗を繰り返すのが当たり前とあきらめないで、これからの私たちの選択のなかで、歴史から学んだことを生かしてゆかねばなりません。

 

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そして今の私たちは何をすればよいのか。どんな選択を選べばよいのか。

 

これからも歴史の本を読みながら少しずつ考えを深めてゆきたいと思います。

 

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