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花發けば風雨多く 人生別離足る

2016年4月15日 金曜日 くもり

一海知義 漢詩一日一首 平凡社 1976年 p33-35

酒を勧む

花發(ひら)けば風雨多く
人生きれば(生きては)別離足(た)る

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勘酒 唐 于鄴

勧君金屈巵
満酌不須辞
花發多風雨
人生足別離

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君に勧(すす)む 金屈巵(きんくつし)

満酌(まんしゃく) 辞するを須(もち)いず

花発(ひら)けば 風雨多し

人生 別離足(た)る

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金屈巵(きんくつし)は、把手のついた金属製のさかずき。満酌は、さかずきになみなみとつぐこと。またなみなみとつがれた盃。不須(もちいず)は、必要がない、いらない。「人生足別離」の足は、たっぷりとあること、過剰にあること。(一海知義 漢詩一日一首 平凡社 1976年、p34)

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補注 于武陵 (名は于鄴)ウィキペディアによると
于武陵(う ぶりょう、810年 – ?)は、中国・唐の詩人。杜曲(陝西省西安市の南郊)の出身。名は鄴(ぎょう)。武陵は字であるが、通常は字で呼ばれていた。
宣宗の大中年間(835年頃)に進士となったが、官界の生活に望みを絶ち、書物と琴とを携えて天下を放浪し、時には易者となったこともある。洞庭湖付近の風物を愛し、定住したいと希望したが果たせず、嵩山(すうざん)の南に隠棲した。
今、『于武陵集』一巻が残っている。
作品に、『勧酒(かんしゅ)』(五言絶句)がある。井伏鱒二の訳詩集『厄除け詩集』に収録された訳詩が有名である。

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補注 以下は、「GOOD-BYE(グッド・バイ) ――「教養」の来た道(15) 天野雅郎」さんのサイトより引用。

・・いまだ存命中であった彼(太宰治)が連載の開始に当たって『朝日新聞』に書いた、以下のような「作者の言葉」が収められていた。

唐詩選の五言絶句の中に、人生即(ママ)別離の一句があり、私の或る先輩はこれを「サヨナラ」ダケガ人生ダ、と訳した。まことに、相逢つた時のよろこびは、つかのまに消えるものだけれども、別離の傷心は深く、私たちは常に惜別の情の中に生きてゐるといつても過言ではあるまい。(改行)題して「グッド・バイ」、現代の紳士淑女の、別離百態と言つては大袈裟だけれども、さまざまの別離の様相を写し得たら、さいはひ〔幸ひ〕。(『太宰治全集』第10巻)・・・(中略)・・・さて、このような漢詩と、その翻訳(translation)に導かれつつ、太宰治は『グッド・バイ』を構想し、そこに「現代の紳士淑女の、別離百態と言つては大袈裟だけれども、さまざまの別離の様相を写し得たら、さいはひ」と、実に茶目っ気のある文章を書き記しておきながら……それとも逆に、そのような「別離百態」の一態として、彼は玉川上水に入水自殺をし、しかも、それが一見、相手の女性(山崎富栄)との「心中」なのか、はたまた「無理心中」なのか、よく判断の付かないまま、その遺体は一週間後、ちょうど彼の満39歳の誕生日(6月19日)に発見され、彼の生前の願いを叶えるべく、その墓は東京の三鷹の禅林寺に、彼の敬慕する森鷗外の墓と向かい合って建てられている・・(以上、天野さんのサイトより孫引き http://www.wakayama-u.ac.jp/kyoyonomori/message/good-bye-15.php)

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補注 同じく、天野さんのサイトより孫引き引用:

『井伏鱒二全集』(第9巻)の該当箇所を見て、じっくり味わって欲しい限りである。

勧君金屈巵  コノサカヅキヲ受ケテクレ

満酌不須辞  ドウゾナミナミツガシテオクレ

花発多風雨  ハナニアラシノタトヘモアルゾ

人生足別離  「サヨナラ」ダケガ人生ダ

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同じく天野さんのサイトより引用 http://www.wakayama-u.ac.jp/kyoyonomori/message/good-bye-15.php :

転句(第三句)と結句(第四句)は「風雨多く」や「別離足(おお)し」と訓読する場合もあるし、人生には音読(ジンセイ)よりも「人生まれて」や「人生きては」を宛がって、そこに対句の修辞(レトリック)を利(き)かせたり、さらに「別離足(み)つ」という読み方をしたりすることもある。

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補注 一海さんの訓読では、第三句は、「花発(ひら)けば 風雨多し」 となっている。一,二,四句は上記訓読と同一。(一海知義 漢詩一日一首 平凡社 1976年 p34) 花發けば風雨多く 人生きれば別離足る・・・第四句を人生と訓むのが普通だろうが、本ページの表題の訓読では「花ひらけば」に対にして「人生きれば」という已然形活用同士で合わせてみた・・・が、どうしても冗長の感は免れず、人生(じんせい)と音読すること(つまり普通訓み)に改めた。

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