philosophy

道徳だけでなく科学も宗教も芸術も、人間が作り出してきた文化的アイテムは、その目指すところは「幸福」という一点にかかっている。

2024年2月20日 火曜日 曇り

小浜逸郎 倫理の起源 ポット出版プラス 2019年

 ・・これを読むと、カントがいかに徹底して、最高善のために道徳律を遵守すること、道徳的態度を貫くことが結果的に(道徳的であるがゆえに)人を幸福に導くことはあっても、けっして道徳が幸福のためにあるのではないと考えていたかがよくわかる。だがもちろんこんな人間理解は、途方もなく現実離れしている。

 およそ道徳だけでなく科学も宗教も芸術も、人間が作り出してきた文化的アイテムは、その目指すところは「幸福」という一点にかかっている。もっとも、科学者や宗教家や芸術家本人たちの主体的情熱のありかが人類の幸福に置かれているかどうかはまったく疑わしいし、またそれらの成果が幸福を生み出してきたかどうかもはなはだ疑問である。しかしなぜ人類がそのような文化的営みに踏み込もうとするのかという基本的な動機が、「こうした方がよい(みんなにとって幸せな)のではないか」というところに置かれていることは明らかである。

 その点で、カントが条件づきで退けているストア派もエピクロス派も、互いに立場は違っても、カントほど間違ってはいなかった。とはいえ、「幸福」という概念ほど哲学が扱いにくい概念はない。後述するように、カント自身もその個体主義的な人間把握によって、この概念をただ「自愛」の概念に直結させるという根本的な誤りを犯している。(小浜、同書、p203-204)

**

*****

*********************************

RELATED POST