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問題は、老齢ともなれば必ずつき纏うさまざまな不幸のさなかにあって、長寿をどう生き抜いてゆくか、である。

2022年2月2日 水曜日 晴れ

スウィフト 平井正穂訳 ガリヴァー旅行記 岩波文庫・赤209-3 1980年(原作は1726年)

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ラピュータ渡航記:

・・この空を飛ぶ島(=ラピュータ)の国王の支配下に属している範囲の陸地は、バルニバービという名称で一般に通っていた。

ラガード(バルニバービの首都)の大研究所:

・・この万能科学者自身は、その時二つの大計画に没頭していた。一つは、畑に籾殻を蒔くということであった。つまり、籾殻の中にこそ種子としての本当の成長力が含まれている、というのが彼の主張であった。いくつかの実験をして見せて、その正しさを証明してくれたが、知識不足の私には何のことかさっぱり分からなかった。もう一つは、・・・以下略・・・(平井訳同書、p252)

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グラブダブドリップ渡航記:

・・私は、古い由緒ある家柄というものを、常々心から賛美してきた人間であったので、・・ところが、期待は見事にはずれてしまった。・・他の王家では、理髪師が一名、修道院長が一名、枢機卿が二名、現れた。王冠を戴いたやんごとなき人々に対する畏敬の念のあつい私としては、これ以上この微妙な問題について述べることはご遠慮申しあげたい。しかし、伯爵だの侯爵だの公爵だのといった連中に対しては、余り関心はなかった。ただ、いろんな特定の家系に属する者が示している独特な特徴を、その先祖まで遡ってつきとめえた時には、我ながら愉快になったことだけは述べておきたい。・・・(中略)・・・それも、けっして驚くには当たらないことであった。そういった家系では、立派な人物の合間をぬってしばしば近習や下僕や従者や御者や博奕打や提琴奏者や勝負師や親方や掏摸(すり)などが現れているのを知ったからである。(平井訳同書、p274-275)

 私は、特に近代史を嫌悪する人間であった。過去百年間における各国君主の宮廷で盛名を馳せたすべての偉人を厳密に調べてみた結果、世間の人々が曲学阿世の徒によっていかに眼を晦まされてきたかを、私は発見した。・・・(中略)・・・そして、世界に名だたる大事業や大革命のそもそもの始まりや動機についてその真相を教えられ、その成功が全くくだらない偶発的事件にもとづくものであることを教えられるに及んで、いかに人間の知恵や誠実さなどというものが取るにたらぬものであるかということを、私はしみじみ痛感したことであった。(同、p276)

・・このローマ帝国が、つい最近おしよせてきた頽廃的な風潮に冒されて、かくも短日月のうちにかくも度すべからざるほど腐敗しきった、ということを見て私は驚いてしまった。しかし、そのため、他の国々における多くの似たような状況を見てもさほど驚かなくなってしまった。事実、そういった国々では、あらゆる悖徳が長い年月にわたって猛威を振るい、名誉を顕彰するのも剥奪するのも、恐らく本来ならなんの権限ももたないはずの最高指導者の匙加減一つにかかっていたのである。(平井訳同書、p280)

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ラグナグ島の不死人間(ストラルドブラグ):

・・これらの不死人間(ストラルドブラグ)たちと私は、長い年月にわたってそれぞれに観察したことや覚えていることについて、互いに意見を交換し合い、さまざまな段階をへて次第にこの世の中に蔓(はびこ)ってくる腐敗堕落の実態を指摘し、人類に対して絶えざる警告と教訓を与えることによって少しずつそれを食い止めてゆきたい。それだけでなく、われわれ自身が範を垂れれば、その影響力も大きいであろう。かくして、人間性の恒常的な腐敗堕落という、あらゆる時代の人々が訴えてやまないあの弊害を恐らくは防ぐことができるであろう。(平井訳同書、p291)

・・なぜなら、永遠の若さ、永遠の健康、永遠の元気というものがその前提になっているからだ。いかに途方もない望みをいだく人間でも、そんなことが可能だなどと思う愚か者は一人もいない。だとすれば、問題は、・・老齢ともなれば必ずつき纏うさまざまな不幸のさなかにあって、長寿をどう生き抜いてゆくか、である。(同、p293)

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