2014年3月5日 水曜日
ウクライナ2014年2月のクーデター
ウクライナの憲法に関しては、幸いなことに日本語に翻訳されたものが以下のサイトに公開されており、私も条項を調べてみることができた。
http://ukraine.is-mine.net/Ukraine.html
「第85条 ウクライナ最高議会の権限」として、85条の10に、「10)憲法第111条に定める特別な手段(弾劾)によるウクライナ大統領の解任」が権限としてあげられている。
そして、第111条には大統領の弾劾に関して以下のように定められている。「第111条 ウクライナ大統領が国家反逆罪又はその他罪を犯した場合、ウクライナ大統領は弾劾により解任される。ウクライナ大統領の弾劾による解任は、ウクライナ最高議会の憲法に定める定数の過半数の議員の発案により審議される。調査を実行するためにウクライナ最高議会は特別弁護士及び特別調査官を含む特別臨時調査委員会を設立する。特別臨時調査委員会の結論及び提案はウクライナ最高議会で審議される。ウクライナ最高議会の憲法に定める定数の3分の2以上の賛成によりウクライナ大統領に対する告訴を決議できる。ウクライナ大統領の弾劾による解任は、ウクライナ憲法裁判所の判決及び弾劾に関する調査・考察を行った憲法弁護士の意見、ウクライナ大統領が告訴されている国家反逆罪又はその他犯罪に関するウクライナ最高裁判所の意見を考慮した上で、ウクライナ最高議会が憲法に定めた定数の4分の3以上の賛成で採択できる。」
今回のウクライナの政変に際しては、「ウクライナ大統領が国家反逆罪又はその他罪を犯した」とされたわけでもなく、「ウクライナ最高議会の定数の過半数の議員の発案」がなされたわけでもなく、特別臨時調査委員会の設立・結論提案がなされたわけでもなく、ウクライナ最高議会で委細を尽くして審議される手続が踏まれたうえで告訴を決議した証拠もなく、「ウクライナ憲法裁判所の判決及び弾劾に関する調査・考察を行った憲法弁護士の意見、ウクライナ大統領が告訴されている国家反逆罪又はその他犯罪に関するウクライナ最高裁判所の意見を考慮した」形もみられず、「ウクライナ最高議会が定数の4分の3以上の賛成」で採択したという報道も一切見られない。
ウクライナの憲法に基づく大統領の弾劾と解任がなされたわけではないので、今回の「野党勢力による政権の掌握」は、非法的な権力奪取、すなわちクーデターといわれるものである。
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ウクライナの状況を理解するためにも必要なのは、民族の歴史的な成り立ち・文化的伝統に対する理解であろう。一つ重要な視点は、クリミア自治共和国を持つこと、そしてキエフ特別市及びセヴァストポリ特別市はウクライナの法に定められた特別な地位にあることであろう。
ウクライナ憲法で領土に関する記載は以下のようである。第9章第132条に総論、133条に各論。
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第9章 ウクライナ領土
第132条 ウクライナ領土は、国土の統一及び不可分性の原則、中央集権及び地方分権の組合せの原則、地方の歴史、経済、生態、地理及び統計特徴、民族的及び文化的伝統を考慮した調和のとれた社会経済開発に基づく。
第133条 ウクライナ領土及び地方行政体は、クリミア自治共和国、州、地区、市、町、村からなる。ウクライナは、クリミア自治共和国、ヴィーンヌィツャ州、ヴォルィーニ州、ドニプロペトロウシク州、ドネツィク州、ジトームィル州、ザカルパッチャ州、ザポリージャ州、イヴァーノ=フランキーウシク州、キエフ州、キロヴォフラード州、ルハンシク州、リヴィヴ州、ムィコラーイウ州、オデッサ州、ポルタヴァ州、リヴネ州、スムィ州、テルノーピリ州、ハルキウ州、ヘルソン州、フメリヌィツィクィイ州、チェルカースィ州、チェルニウツィー州、チェルニーヒウ州、キエフ特別市及びセヴァストポリ特別市からなる。キエフ特別市及びセヴァストポリ特別市は、ウクライナの法に定められた特別な地位を有す。
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クリミア自治共和国に関しては、ウクライナ憲法の第10章第134から139条に記載されている。第134条には、「クリミア自治共和国は、ウクライナを構成する不可分の領土であるのと同時に、ウクライナ憲法が定める範囲内で自治を行う」とある。138条にはクリミア自治共和国の権限が10項目にわたり記載されているが、その第8項から10項は以下の通りであり、歴史的背景を十分に考慮しない限り理解することは難しい。
以下、ウクライナ憲法の第10章第138条より引用:
8)クリミア自治共和国の言語及びウクライナ語及び文化の運用及び発展の保証、歴史遺産の保護及び運用
9)追放された民族の帰還に関する政策の発展及び遂行
10)クリミア自治共和国又は特定地域への非常地帯宣言及び生態系危険地帯の発令
<引用終わり>
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このような特殊な背景をもつクリミアやウクライナ東部・南部地域がロシアではなく、ウクライナに編入されていることは、一見、非常に不自然に思われる。この難しい歴史に関しては、以下のような解説が参考になる。
「アレクサンドル・ソルジェニーツィンが指摘した通り、歴史的にロシアの州であったものを、ウクライナに引き渡したのは、ソビエト連邦共産党の愚行だった。当時は、それがソ連指導部にとっては、良いことのように見えたのだ。ウクライナは、ソビエト連邦の一部で、18世紀以来ロシアに支配されてきた。ウクライナにロシア領土を付け足せば、第二次世界大戦中、ヒトラーと共に戦った西ウクライナのナチ分子を弱めることになる。恐らく、フルシチョフがウクライナ人だったという事実も、ウクライナ拡大要素の一つとしてあるだろう。ともあれ、ソビエト連邦、もとのロシア帝国そのものが崩壊するまでは、それも問題にはならなかった。アメリカ政府の圧力で、ウクライナは、ロシアの州を取り込んだ別の国となったが、ロシアはクリミアの黒海海軍基地を維持していた。」 以上、「マスコミに載らない海外記事」さんのWEBページ
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2014/03/post-8177.html
より引用。 上記の海外記事の原文は、PaulCraigRoberts.org によるもの。
http://www.paulcraigroberts.org/2014/03/03/washingtons-arrogance-hubris-evil-set-stage-war/
で見ることができ、対応する英文は以下の通り。 <以下引用>
As Aleksandr Solzhenitsyn pointed out, it was folly for the Communist Party of the Soviet Union to transfer historic provinces of Russia into Ukraine. At the time it seemed to the Soviet leadership like a good thing to do. Ukraine was part of the Soviet Union and had been ruled by Russia since the 18th century. Adding Russian territory to Ukraine served to water down the nazi elements in western Ukraine that had fought for Hitler during World War 2. Perhaps another factor in the enlargement of Ukraine was the fact of Khrushchev’s Ukrainian heritage.
Regardless, it did not matter until the Soviet Union and then the former Russian empire itself fell apart. Under Washington’s pressure, Ukraine became a separate country retaining the Russian provinces, but Russia retained its Black Sea naval base in Crimea.
<引用終わり>
このような不自然な国境の定め方が、あとあと大きな問題に発展してしまうのは避けられない。ただし、地続きの平原に対してどのように国境線を引いたとしても、当事者のだれもが納得するような形にできる道理はない。筧次郎さんが「自立社会への道(新泉社、2012年)」でおっしゃるように、ガンジーが示したような「第三の道」を選択しない限り、国境問題の本質的な解決というものはあり得ないことかと思う。
それはともかく、上記のポール・クレイグ・ロバーツさんが言及されている「ヒトラーと共に戦った西ウクライナのナチ分子」の流れをくむ極右勢力による武力行使が今回のウクライナのクーデターに関与しているという報道もあり、ウクライナという国の長い歴史、特にロシア革命当時からの苦難の歴史を深く理解しない限り、今回のクーデターの民族的文化的な背景をわかることは難しいと思う。
私の場合、藤永茂さんの「私の闇の奥」のWEB記事 http://huzi.blog.ocn.ne.jp/darkness/ でロシア革命直後の強制移住により非常に多くの数の人々が餓死したこと、それをはじめて知ったのがそんなに遠い昔ではない。歴史をもっともっとよく識って理解してゆかねば、ウクライナのことを正しくわかることが難しいと思う。
それにしても、チェルノブイリの原発事故。その被害のために住み慣れた土地からの移住を余儀なくされた人々の苦しみの記憶が今に消えることは決してないであろう。
今回の政変の直接的・間接的結果として、今までウクライナの地に平和に暮らしていた人々が生活を脅かされたりやむを得ず移住しなければならないような事態、それを何とか避けられないものだろうか。
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今回のクーデターの経緯からして、ウクライナ西部と、クリミアを含むウクライナ東南部とが分裂する可能性が高まっていると考えられる。軽はずみな暴力や武力の行使が戦争へつながる危険さえもはらんでいる。
権力に携わる人々、そしてひとりひとりの兵士、人民すべての当事者が、「礼儀正しい」人として、慎重に平和的に事に当たって欲しいと願っている。
私の祈ることは、何よりも人々のいのちが大切に扱われること。そのために、
1) 暴力や武力によることなく、
2) 話し合いと法の下での住民の選挙による平和的な方法で、
3) ウクライナの人民の財産や生命に危害が加えられることなく、
4) ゆっくりと慎重に解決していって欲しい。
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ウクライナの人たちと私たち日本の人民は、ともに史上最悪の原発事故を経験したり経験しつつある民であり、さまざまな方面で互いにわかりあい助け合わなければならないと思う。
この辺りのことについてもいつか記載してゆきたい。
以上、2014年3月5日 水曜日
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