U先生へ
ご連絡いただきありがとうございました。薬理が楽そうだったので、すこし残念。私も本格的に薬理を手伝う気になっていて、教科書に関して考え始めていたところです。
実は、講義の資料作り、具体的にやってみると意外なところがネックになります。私の担当する発生再生は、理解しようとすると大量のイラストが必要になりますが、学生配布が可能なプリントは、白黒となります。これだと新しい教科書のカラー(内・中・外胚葉その他もろもろ)の情報が失われるため、十分ではありません。その補足のため、私は大量のカラー図板を作製していますが、14コマの講義で1500枚のカラー図版をつくるという、まさに(私にとっては)超人的な作業となってしまいました。あと残りは6コマ、700枚程度です。昨日の講義までで8回、これで山の峠は越えて、今日はホッとしています。あと一息です。
腫瘍は、専門であることと、白黒でも情報が足りないわけではないので、ずいぶん楽ですが、それでも1500枚のスライドは作ります。これも山を越えましたが、この6週間、本当に大変でした。これからあと5週間余(全体では3か月)で計3000枚という、人生通じても最多記録を作れそうです。今後は決してないでしょう。無いことに固く決めてます。私の場合何でも何とかやれてしまうのですが、これが私の災難の元のような気もします。
しかし、要領がわかったので、何でも極めて能率良くできるような状況です。薬理でも必要であれば半分?以上お手伝いするつもりです。というのも、先生には、講義のスライド作りのような単純作業よりも、研究と研究する大学院生・学生の指導に頑張っていただきたいからです。
さて、講義は何年も続く場合を考えて、できるだけ広々として基盤的な学問が良いでしょう。上記の薬理もそうですし、今回あげてもらったものの中では、(分子レベルだけでない、しっかりとした形態・機能学としての)病理学・解剖学・生理学などが教え甲斐が高いと思います。また教師の自由度も個性も発揮しやすいと思います。学生の多くはまだまだジェネラルなこと・どうしても知っておいて欲しいこと・せめて30年経ったぐらいでは古びないこと、をしっかり教えてあげた方が現在・将来ともに役立つと思います。99%の学生にとって、講義で詳しく教わったことと同じテーマの話を聴く機会は今後、二度と無いことでしょう。どうしても知っておいて欲しいことは是非ともこのチャンスに教えてあげたいのです。
このような科学の基盤を、私たちプロフェッショナルが、如何に消化し、本質的なところを大事にしながら、後の世代の子供たちにできるだけ面白く印象深く伝えてゆくか、そして(現在と立ち向かわなくてはならない)彼らが自分なりに考えるための基盤に育てていけるか、そこの選択やプレゼン内容に私たちの自由さと個性があります。私たちの勉強や成長にもつながります。私も今まで勉強する機会が無く苦手だった(形態)発生学ですが、今回の講義シリーズで人体発生学を詳しく教えることによって、少し面白さがわかりかけてきました。
やや専門に振ったテクニカル系の遺伝子治療や遺伝子工学では、数回なら良いのですが、14回も教えるのは学生と教授の双方にとってきつすぎるかもしれません。ただし、それらの話題をトピックス的に扱いながら、基盤科学を教えるという手があります。わたしの発生再生科学の講義では、発生のあくまでも基盤的なところをしっかりとやっていくことを中心に、再生医療に関しては、簡単にトピックス的に入れ込むことで眠気覚ましに使う方法を画策しています。
以上は、多くの一般学生への講義の話でした。一方、私たちの研究に興味を持っていて配属されてきた学生の卒業研究や大学院生指導で実地で教えてゆくのは、また別のアプローチ。学生の質、能力、希望を見きわめてからです。実際の学生の学習の度合いによっては、若干の勉強会も必要かもしれません。それはまた4月に始めましょう。
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以上、2010年の秋頃、U先生へのメールより (詳細な日付は不詳)
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