学ぶこと問うこと

教育の方便

 

T先生へ

2010年10月1日

ご連絡いただきありがとうございました。

お問い合わせの件、iPS細胞とすること、もちろんOKです。よろしくお願いいたします。

先日、火曜日は私のY大学での最初の授業ということで、ずいぶん張り切って用意しました。発生学のイントロとして、個体発生と系統発生を関連づけながら、ヒトの進化や病気の起源にも言及して、大きなドラマの導入部のようにしてみたいと思いました。「こんなに不思議なことが多くある。どうしてだろう? 本当はどうだったのだろう? 統一の取れた理解ができる法則や、適用の広い原理のようなものはあるのだろうか? 疑問に科学的な答えを与えるアプローチにはどんな方法があるのか? 自分(学生さん自身)にとってはどのアプローチが一番おもしろいのだろうか?」などということを学生さんに多くの疑問点として感じて興味をもってもらえれば成功、というねらいで、わかりやすい題材(主に四肢の発生・進化)をつかって印象的な構成にしてみました。多くの学生に質問しながら授業を進めました。初めて聴く内容でしょうから、深くはわからないことが多いとは思いますが、ともかく「生命の歴史(個体発生・系統発生)は不思議で面白い」という印象が学生の頭の中に残ることが成功だと思っています。

残念ながら、一部の学生さんは、上記のような「多くの不思議」で頭の中がブレイン・ストームの状態になるのを非常に忌避しているというのを、私も思い知らされました。教科書を指定し、そこに書かれている特に重要な事柄を教師が選定して、穴埋め問題のような感じに加工して与え、学生には答えを覚えやすい短いことばで穴の空いた箇所に書き込むように指導する、授業時間内で覚えるべき事柄が覚えられるような、実益の挙がる授業にして欲しい、というような趣旨の要求を、授業後に学生から強く要望されたのは、私にとっては驚愕すべき新たな経験試練となりました。

また、相手に対する暖かい心持ちを軸にして、互いにとって建設的に語り合うという習慣も、若い学生さんには身についていないようです。自分だけの「正義」を標準にして義憤にかられて主張を繰り返す、というスタイルには非常に幼いものを感じました。

大学教育としての理想は見失わないようにしながら、未だ未熟なレベルに留まっている状況の学生に対しても、偏って狭まった視野を広げてあげ、将来にわたって遠くまで見通して進んでいくことができるように、できるだけ上手な教育の方便を私なりに模索してゆきたいと、今回の経験から思いました。

そのあと##先生のところにご挨拶にお伺いし、サポーティブなアドバイスを多くいただけました。T先生にもご挨拶申し上げるべきところ、あいにくご不在でしたので失礼してしまいました。*月*日の講義は午後6時前に終わりますので、6時過ぎには先生のところにお伺いしたいと思います。どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。

 

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以上、2010年10月1日付け T先生へ

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