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好きになれない仕事に就いている人間が、慰めとなる自己幻想をいくつも持ち続けることは不可能なのである。嫌悪、魅力の欠如は職業そのものから人の性格へと広がる。

2024年7月29日 月曜日 降り続く雨

コンラッド シークレット・エージェント 高橋和久訳 光文社古典新訳文庫 2019年(オリジナルは1907年)

 ・・好きになれない仕事に就いている人間が、慰めとなる自己幻想をいくつも持ち続けることは不可能なのである。嫌悪、魅力の欠如は職業そのものから人の性格へと広がる。まったき自己欺瞞の心地よさを味わえるのは、職業上定められた活動が幸運にも偶々おのれの気質を偽らないですむと思える場合に限られるのだ。警視監は本国(補註:植民地ではなくイギリス本国=ロンドン)での自分の仕事が好きではなかった。地球上の遠く離れたところでかつて従事していた警察の仕事は、本格的ではないにしろ戦争めいたところ、少なくとも野外スポーツの危険と興奮を感じさせるところがあって、それが慰めになった。・・(以下、略)・・(コンラッド、同訳書、p189)

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『タイム』誌1923年4月7日号表紙
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