学ぶこと問うこと

研究と子育ての両立(その2)

以下、2010年1月29日付メールより引用(一部改変)

********************************************

C枝さま ご連絡いただきありがとうございました。

詳細な状況はわかりませんので、ごくジェネラルな、誰でもできるようなアドバイスをさせていただきたいと思います。(ただし、私自身の失敗や挫折の経験による反省も若干含まれてしまっています。)

メジャーポイントとしては:

1.C枝さんのような才能ある研究者には、息長く(せめて30年以上は)コンスタントに情熱をもって仕事を進め、科学のコミュニティーに大きく貢献していただきたいこと。

2.そのためにも、家族(本人含む)の健康と幸せは、大切な基盤です。これがないと仕事は続きませんし、第一、暮らしていてつらいです。

3.よって、まずは、家族(本人含む)の健康と幸せを最重視してプランを立てると良いと思います。

4.したがって、若干の経済的なこと、現在の仕事や職場のこと、その他、やや些細な問題は、妥協ないし後回しに(非優先事項)にしても構わないでしょう。

5.上司としての私は、個人的には上記(特に1)のように考えていますので、現在の仕事や職場のことは非優先事項と考えて、C枝さんの判断で自由にプランされると良いですよ、と言ってまいりました。偽善ではなく、正直、この通りです。

以下はマイナーポイントになります。

6.上記1のような観点から考えますので、2月であろうが、4月であろうが、はたまたそれよりずっと遅くなろうが、些細なことです。1に書いたように、長い視点から科学のコミュニティーのなかで息長く仕事してくださればありがたいです。

7.札幌の2月3月は、道路が凍結し、とても危ない状況です。もしC枝さんに不安があるのなら、あわてた復帰は、お勧めできません。

8.前回お話ししたような無認可の保育園(年度初めでなくてもいつからでも頼めます)など、多くの選択肢がありますので、良く情報を集め、良い保育所を選んで、さまざま手伝っていただくと良いと思います。無認可のところは経済的には高いのですが、上記4のような観点から、お金はかけなくてはならないときは鷹揚に使うべき場合もあります。

9.大学の規定上、育児休業は今年の4月からしか取ることが出来ないこと、事務局からうかがいました。もし必要であれば、別の名目のお休み(休職など)もあると思いますので、事務局に問い合わせてみると良いでしょう。
たとえば、S大での私の同僚の教授で、膵炎・腹膜炎の後遺症のためほぼ1年お休みなさった方もおいでです。1年以内なら問題なく復職できるとのことでした。お給料は減かゼロか、詳しいことは知りませんが、上記4の観点からは、経済的なことはやや後回しでも良いかと思います。C枝さんたちの詳細な状況はわかりませんので、無責任なアドバイスになっているかも知れませんが、その場合はご容赦ください。

10.飛行機の件です。私が飛行機に乗っていて、時々、ひどく泣いている子がいて、かわいそうに思います。耳抜きのできない・ないし下手な人は苦しみます。私自身も23,4歳頃、医療実習で、高圧酸素室でやられて浸出性中耳炎になり、非常に長引いて、何回も鼓膜切開をしなくてはならず、大変、不幸なことでした。音が苦痛なので、生活上、独特の苦しみです。数年ですっかり治りましたが。
当部では前の前の秘書さんのA子さんの赤ちゃんが浸出性中耳炎を煩われていらっしゃいました。もちろんそんなに苦しむ可能性はとても低いとは思いますが、もしそうなってしまうと、乳児の親は仕事どころではありません。本人はもっと大変です。
よって、時間もお金も余分にかかるかも知れませんが、できればほかのより安全な交通手段をお勧めします。子供の安全のためにかけたお金と時間は、あとになっても後悔しないと私は決めています。

私にとってのメジャーポイント:

最後に、「こんなに仕事を二の次三の次にするようアドバイスする上司は本当に仕事をする気のない怠け者の上司ではないか?」 と、部外者の方は思われることも無いではないでしょう。外面上、そう見られても仕方がない形ではあります。そこで、以下に若干の申し開きをしたいと思います。

白血病やがんの根治につながる治療法を何としても創りたいと思っています。卒後29年、続けてきました。失敗を重ねることで、だいぶ深く理解できてきたので、もう少しで何か達成できるかも知れないという予感があります。執着にしか過ぎないのかも知れませんが、もう一度だけトライしてみたい、という気持ちがあり、続けるつもりです。

一方で、20年も30年もやってくると、自分が多くを達成できるだろう、という楽観はもはや許されません。(日暮れて道遠し、伍子胥の故事などをWEBに公開しています。) 若い人たちにバトンタッチして、自分の位置からずっと先へ走っていって欲しい、という気持ちが(以前から)強くあります。しかし、その当たり前のことさえ、全く予断を許しません。多くの人たちは、研究を続けてくれませんし、続けている人たちも割と簡単に目標を見失って道に迷っているばかりです。現在までに若い人たちの教育に成功しているとはお世辞にも言えません。

私がC枝さんと一緒に仕事できる時間は恐らくとても短いのですが、その間はできるだけお手伝いできたらと思っています。たとえば、だいぶ前のグループミーティングの時に、Yさんのデータのグラフの読み方(実際にはSDS-PAGEのバンドの変化の解釈をグラフを頭に描いて仮説を検討してみること)をディスカッションしました。あの時に、C枝さんにも少しアドバイスできたかな、と思いました。私の得意なところで、かつ、大切なところです。WEBに「教育の理念」として「グラフに書いて考えよう」など、公開しました。ほかに、これからも、C枝さんに教えると良いことを見つけたら、(嫌われるかどうかには構わず)、できるだけ一生懸命教えたいと思っています。

C枝さんのような能力ある研究者には、白血病の本質的治療を築くのに、大きく貢献していただきたいと望んでいます。現在は私と一緒にやっていますが、できれば近い将来、独立して仕事を進めていって欲しいと思います。そして目標を見失わずに、進み続けることです。逆説的な言い方ですが、一年二年ぐらい家族のために立ち止まることは全く些細なことです。長い尺度で、息長く情熱をもって仕事を進め、現時点よりもずっと先へ進んで行ってもらいたいと思います。そのためにも、家族(本人含む)の健康と幸せは、大切な基盤です。どうぞ、まずはこの基盤を一番大切にして、悔いのない選択を重ねていってください。

********************************************

以上、2010-03-06付けのWEBページより再掲

********************************************

RELATED POST