2020年3月4日 水曜日
茨木のり子 寸志 茨木のり子詩集 花神社 1982年
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ねえ
笑って!
あちらで
驪姫(りき)という娘のように
はればれと
(茨木のり子 「笑って」、同書、p42;初出は1980年ユリイカ)
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補註: 驪は馬偏に麗。簡単にはワープロの漢字変換で出てこない字なので単語登録した。
補註: 「笑って!」とくれば、思いだすのはチャップリンのモダンタイムズの最後の場面(「スマイル!」)である。が、今後の用心のためには私の道具箱の片隅に、この茨木のり子版の荘子・驪姫(りき)の「笑って」を加えておかなければなるまい。そして人生の途中では、いつもチャップリンとポーレット(Paulette Goddard)とを思いだし、そして人生の最期ではこの茨木のり子版の荘子・驪姫(りき)を思いだそう。ただ、難しいのは、途中と最期が見分けにくいこと。今回の手術は全身麻酔だったので、最期の可能性もゼロではなかったのだけど、なぜか、寝てる間に通過できてしまった。むしろ地獄は目覚めた後の現実の痛みの方だ。
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まさしくこちらこそ地獄なのでは
でなけりゃどうしてこんなにも
はらはらおたおたしなくちゃならぬ
時の車にいびられて
苦しみに翻弄されつくし
せいいっぱいに闘いもし
・・(茨木のり子 「笑って」、同上)
補註: 途中と最期が見分けられない運命ならば、(伊勢物語の)業平卿のようにのんびりとした「はらはらおたおたしなくて」いられる辞世を詠む生き方も我が選択肢に加えたし。
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ひとつひとつ数えあげていったら
あれ
江戸期のお侠な(おきゃんな)辰巳芸者が
めざしたものなどに
似てきた
(茨木のり子、「成分」、同書、p78)
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不老長寿も憧れだった
・・
今や現実 平均寿命八十歳になんなんとする
助けて!
手に入れた玉手箱の実態に愕然
みんなやれやれと深い溜息
互いに顔を見合わせて
こんな筈じゃなかったな
(茨木のり子 「冷えたビール」、同書、p34)
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補註: 令和二年の今や現実 五十歳の(人の)平均余命五十年になんなんとする! 皆さん、第二の人生でも(次の世代の人々のために)元気よく働きましょう。
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問い
ゆっくり考えてみなければ
いったい何をしているのだろう わたくしは
・・
いちどゆっくり考えてみなければ
思い思いし半世紀は過ぎ去り行き
青春の問いは昔日のまま
更に研ぎだされて 青く光る
(茨木のり子 「問い」、同書、p18-19)
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