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悲しみとか怒りとかいう思いよりも、呆れかえった馬鹿馬鹿しさに身悶えしました。

2020年12月23日 水曜日 曇り

太宰治 おさん ちくま文庫版太宰治全集9(オリジナルは昭和22年10月1日発行)

・・妊娠とか何とか、まあ、たったそれくらいの事で、革命だの何だのと大騒ぎして、そうして、死ぬなんて、私は夫をつくづくだめな人だと思いました。・・夫はどうしてその女のひとを、もっと公然とたのしく愛して、妻の私までたのしくなるように愛してやる事が出来なかったのでしょう。地獄の思いの恋などは、ご当人の苦しさも格別でしょうが、だいいち、はためいわくです。

・・・(中略)・・・

自分の妻に対する気持一つ変える事が出来ず、革命の十字架もすさまじいと、三人の子供を連れて、夫の死骸を引取りに諏訪へいく汽車の中で、悲しみとか怒りとかいう思いよりも、呆れかえった馬鹿馬鹿しさに身悶えしました。(太宰、同書、p257)

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 ・・などと、本当につまらない馬鹿げた事が、その手紙に書かれていました。男の人って、死ぬる際まで、こんなにもったい振って意義だの何だのにこだわり、見栄を張って嘘をついていなければならないのかしら。(太宰、同書、p257)

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「大事にしているつもりなんだがね。風にも当てず、大事にしているつもりなんだ。君は、本当にいいひとなんだ。つまらない事を気にかけず、ちゃんとプライドを持って、落ちついていなさいよ。僕はいつでも、君の事ばかり思っているんだ。その点に就いては、君は、どんなに自信を持っていても、持ちすぎるという事は無いんだ。」・・・(中略)・・・(私は、あなたに、いっそ思われていないほうが、あなたにきらわれ、憎まれていたほうが、かえって気持がさっぱりしてたすかるのです。私の事をそれほど思って下さりながら、他のひとを抱きしめているあなたの姿が、私を地獄につき落としてしまうのです。(太宰、同書、p253)

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