サマセット・モーム 天野隆司訳 昔も今も ちくま文庫 2011年(オリジナルは1946年5月刊)
・・際限ない権力や贅沢三昧の生活が堕落させる以前の、あるローマ皇帝の頭部を彷彿させる。その皇帝の美しい容貌には、やがて彼の暗殺の引き金となる残酷な肉欲を感じさせるものがあった。ティモテオ修道士はマキアヴェリが知らないタイプの人物ではなかった。豊かな赤い唇やふとい鉤鼻や、美しい黒い眼のうちに、図太い野心や狡猾な知性、飽くなき欲望がうごめいている。そして善良で素朴な信仰心の仮面が、それを巧みに隠している。・・マキアヴェリは本能的に感じとった、これはおれが得意とする相手であると。彼はそもそも坊主がきらいだった。坊主というのは、たいてい愚か者か悪人である。たぶん、こいつは悪人の部類に入るやつだろう。しかし事はなんであれ、慎重に進めなければならない。(モーム、同訳書、p151)
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