2016年6月14日 火曜日 昨日につづいて雨
エントロピーの発見と理解の歴史
鈴木炎 エントロピーをめぐる冒険 初心者のための統計熱力学 講談社ブルーバックス 2014年
エントロピーの意味をもとめて
「熱を温度で割った量」が結局は何を意味しているのか、それが物質の内部構造や状態とどう関係しているのか、また、熱力学の第二法則とは根源的な原理なのか、それとも何か別の理論から証明することが可能なのか・・・とりわけ第二法則の<不可逆性>は、ニュートン力学には存在しないきわめて異常な性質である。(鈴木、同書、p85)
エントロピーの統計力学的定義
速度分布fの対数の平均値 H = <lnf>
H定理 この関数Hが時間とともに、必ず減少してゆく。したがって、Hが最小になった分布(すなわちマクスウェル-ボルツマン分布)が、唯一の行きつく先、つまりは「終着駅」であることが、きちんと証明できたのである。・・(ボルツマンは)語る。この関数が(符号は逆だが)本質的にエントロピーそのものであることがわかった。第二法則の解析的証明へつながるまったく新しい経路が切り開かれた。 これは確かに、その通りだった。ミクロな分子運動の力学から、エントロピーが不可逆に増大することーーー第二法則が導かれたからである。(鈴木、同書、p94)
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不可逆性は、そもそもどこから来るのか。過去から未来へ、一方向にしか進まない時間の矢とは何か。・・この根源的な問題は、今日までさまざまな角度から研究されているにもかかわらず、最終的解決には到っていない。(鈴木、同書、p99)
この世の<不可逆>のすべてが第二法則によるものならば、時間の流れる方向を決定しているのは<エントロピー>そのものということになる。 「宇宙のどこかで仮に、エントロピーが減少することがあるならば、そこでは時間が逆に流れているように見える化もしれない」と書いたのはボルツマンである。・・・(中略)・・・するとこのケースでは、エントロピーとは異なる「何か」が、時間の流れを決めていることになる。実は、それは「因果律」すなわち「原因のあとに結果が来る」というルールである。・・原因は一発でつくれるが、結果はあちこちに波及するので、原因と結果の順序を逆にはできない。したがって因果律が時間の方向を決したのだーーーこれがポパーの反論である。 だとすると<時の矢>とは、そう単純なものではなく、少なくとも2種類はあるということになる。・・これにはさらに、われわれを悩ませる反論がある。「原因のあとに結果が来る」という認識そのものが、そもそも錯覚にすぎないというのである。・・・(中略)・・・したがって原因と結果を入れ替えることは、原理的には何の問題もない。日常生活で波の収斂が見られないのは、単に、赤道上のような「おそろいの初期状態(境界条件)」が確率的にきわめて起こりにくいということの反映でしかない。だから結局は「因果律の矢」も格率の問題であり、やはり広い意味で「エントロピーの矢」の一部なのだ。 この大胆な解釈が、あらゆる「因果律」をチャラにできるのかどうか。是についてはまだ議論が続いている。(鈴木、同書、p249-251)
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