2024年11月24日 日曜日 雪のち曇り
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ソルジェニーツィン 「煉獄のなかで」 木村浩・松永緑彌訳 タイムライフブックス 昭和44年・第二刷 (原題は『第一圏にて』、1958年頃から1967年頃までの9年がかりで完成・・米国の出版社から英語版、ついでロシア語版が出版、日本語版の本訳書は1969年刊; この小説の舞台は1949年12月末の数日間)
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・・メフィストフェレスは相変わらず揶揄することをやめようとはしない。彼はファウストに、さも沼沢が干拓されていくかのような偽りの図を描いてみせる。わが国の批評界はこの瞬間を楽観的な意味に解釈するのがお好きだ。つまり、ファウストは自分が人類に利益をもたらしたのを感じ、そこに最高の喜びを見出して、『瞬間よ、とどまれ! 汝はあまりにも美しい!』と叫んだっていうのだ。ところがくわしくしらべてみると、これはゲーテが人間の幸福というものを冷笑したのじゃないだろうかという疑問がわく。何しろ実際にはファウストは人類に何の利益ももたらしちゃいないのだからね。待ちに待ったこの聖なる文句を、ファウストは墓の一歩手前で、メフィストフェレスにすっかりだまされて、おそらく本当に気の狂った状態でいうわけなんだ。幽鬼(レムール)たちは早速彼を墓穴に蹴落としてしまう。いったいこれは何だろうねーー幸福への頌歌だろうか、幸福に対する揶揄だろうか?」・・・(中略)・・・「・・(前略)・・私は戦前の講義のひとつで、『ファウスト』のこの部分をもとに、幸福などというものはない、それは達しえぬか迷妄かのだちらかだ、という悲観的な考えを展開したんだ。するといきなり、かわいらしい手帖から破りとった目のこまかいグラフ用紙に書いたメモを僕に渡した女子学生がいてね。そこにはこう書いてあったよーー
『わたしはいま恋をしています。そして幸福です! 先生はこれをどうお考えですか?』とね」
「で、君は何といってやった?・・・」
「君なら何といってやるね?・・」(ソルジェニーツィン、同訳書、p46)
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ウィキメディアから引用。ソルジェニーツィン、1974年。
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