2015年12月15日 火曜日 曇り
陳舜臣 青玉獅子香炉 中国仁侠伝 陳舜臣中国ライブラリー29 集英社 1999年
清室善後委員会の点査工作: それに従事した人たちは、しだいに何かに憑かれたようになった。・・・(中略)・・・
「亡びた王朝の怨恨が、このなかにこもっている。それがわれわれのうえにのしかかるのにちがいない」
と言う者もいた。
「いや、ここの収蔵品は、永年にわたって人民から搾取したものだ。人民の膏血なのだ。われわれをこんなに興奮させるのは、一つ一つの品にこめられた無告(むこく)の民の怨嗟だろう」
そう反駁する職員もいた。
「そうではない。これは帝王の所蔵品かもしれないが、つくったのは民衆だ。偉大な民衆の創造力の結晶がここにある。それがわれわれの心にふれて、感激させるのだ」
そんな声もあった。
ーーーこの機関には朝気(ちょうき)があった。
当時の職員の生き残りのひとりが、四十年後、回顧録にそう書き記している。
朝気とは、躍動する清新の気である。集団的な興奮状態がそれをうんだ。(陳舜臣、同書、p26)
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注:
むこく【無告】 自分の窮状を告げて訴える手立ての無いこと。 「―の民の声無き声」
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