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店に陣取っている去勢派の信徒は、上階に部屋を借りて住んでいた。

2019年12月7日 土曜日 曇り

亀山訳 白痴2 光文社古典新訳文庫 2017年

・・建物は大きく、陰気な感じのする三階建てで、なんら建築上の装いもなければ、色合いもくすんだ緑色をしていた。前世紀(=1700年代)の終わりに建てられたこの種の数少ない建物は、まさしくペテルブルクでも(何もかもがきわめてすみやかに変化する)このあたりの通りにあって、ほとんど変化なく残っていた。堅牢な造りで、壁は分厚く、窓もごくわずかだった。一階の窓には、ところどころ格子がはめられていた。一階の大部分が両替商だった。店に陣取っている去勢派の信徒は、上階に部屋を借りて住んでいた。・・これらの建物に住んでいるのは、ほとんどがもっぱら商いを生業とする連中だった。玄関の門のところに近づき、表札を見ると、こう書かれてあった。≪名誉市民ロゴージンの家≫ ・・ 公爵は、ロゴージンが母親と弟と三人で、この殺風景な建物の二階の全フロアを借りて暮らしていることを前々から知っていた。・・(亀山訳 白痴2、p67-68)・・「家はおふくろのもんさ。おふくろの部屋にはここから廊下でつうじているんだ。」 「きみの弟さんはどこに住んでいるの?」  「弟のセミョーンは別棟に住んでいるよ。」(亀山訳 白痴2、p72)  「この家は爺さんの代に建てられたものだ」彼(=ロゴージン)は注釈を加えた。「この家には、ずっと去勢派の連中が住んでいたのさ、フルジャコーフって一家で、いまも一角を間借りしてるが」  「ほんとうに陰気な感じだね。こうしてきみも、陰気に暮らしているんだ」書斎を見回しながら公爵は言った。(同、p73-74)  「きみのお父上は、古儀式派じゃなかったのかい?」  「いや、教会に通っていたな。でも、たしかに旧教のほうが正しいとは言っていたがな。去勢派のこともものすごく尊敬していたよ。・・でも、なぜ尋ねたんだ。旧教がどうとか?」(同、p75)

「レフ、おれはな、あんたが目の前からいなくなると、とたんにあんたが憎くなってくる。あんたと会わなかったこの三カ月、分単位であんたに腹を立てていたものさ、ほんとにな。・・ところがいま、あんたといっしょにいて十五分と経っていねえのに、憎しみなんぞまるで消えちまって、あんたのことが、また元どおり好きになっている。だから、もう少しいっしょにいてくれ・・」(亀山訳、同書2、p78)

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・・あの男の家は、陰気で、わびしくて、そこには秘密が宿っています。彼の引きだしには、例のモスクワの人殺しのように、絹で包んだカミソリが隠されているとわたしは確信しています。(亀山訳、同書3、p334)

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