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晴れやかでおだやかな朝に目を覚まし、自分はもう一度人生を新たにはじめるんだと感じられたらなあ。

2024年7月24日 水曜日 曇りときどき雨

チェーホフ 浦雅春訳 ワーニャ伯父さん/三人姉妹 光文社古典新訳文庫 2009年

アーストロフ ・・十年も経てば、別人さ。どうしてかというとね、働きすぎたんだよ。朝から晩まで立ち通しで休みも知らず、夜、横になって毛布をかぶっても、病人のところに引っぱり出されるんじゃないかと気が気じゃない。・・これで老けなけりゃ、おかしいよ。それに生活自体、侘しくってね、バカバカしくって、不潔きわまりない・・。この生活ってのが、また足手まといなものさ。まわりは変わり者ばかり、変人の集まり、そんな連中と二年、三年とくらしてごらん、こっちまで次第に変人になってしまうさ。避けがたい運命だね。(中略)・・だがね、感覚がどういうものか、すっかり鈍くなってしまった。なんにもしたくないし、ほしい物なんかない、好きな人は誰もいない・・。いや、ばあやさんだけは別だよ。ぼくが子どもだったころにも、あんたと同じようなばあやさんがいたよ。(チェーホフ、同訳書、p11)

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・・ワーニャ ・・心底愛していた妹のためにぼくが遺産相続を放棄しなかったら、この土地は買えていなかったんだ。それどころか十年間馬車馬のように働いて、ぼくが借金を全部払いおえたんだ。(中略)この土地が借金からきれいさっぱり身ぎれいになって、実入りを上げるようになったのも、もとはといえば、ぼくがひとり骨折ってきたからだ。それなのに、ぼくが老境にさしかかった矢先に、哀れ、ぼくはお払い箱というわけか!(チェーホフ、同訳書、p97)

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・・アーストロフ 聞き飽きた冗談だな。君は狂ってなんかいない、ただ連中と違うだけだ。ただの道化だ。以前ぼくは変人というのは一種の病気、アブノーマルだと考えていたが、今じゃちがう、正常な人間こそ変人なんだよ。君はまったくもって正常だ。(チェーホフ、同訳書、p111)

 ・・ワーニャ (中略)分かるよね、残りの人生を新たに生き直せたらなあ。晴れやかでおだやかな朝に目を覚まし、自分はもう一度人生を新たにはじめるんだと感じられたらなあ。(中略)

 アーストロフ 何を今さら! 新しい生活なんてあるものか! ぼくらの状況は、君のもぼくのも、なんの望みもない。(中略)・・

 アーストロフ ・・この郡にはまっとうで知的な人間は、ぼくと君の二人しかいなかった。ところが、十年のうちにぼくらは、軽蔑していた俗世間という生活に飲み込まれてしまったのさ。俗世間の病魔がぼくらの血を腐らせ、ぼくらもまわりの連中同様くだらん人間に成り下がってしまったのさ。(後略)(同訳書、p111-113)

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