2019年3月30日 土曜日 晴れ
藤尾慎一郎 弥生時代の歴史 講談社現代新書 2015年
弥生文化の仮定義(藤尾、同書、p4、p233)
本格的な水田稲作が始まった前一〇世紀後半から定型化した前方後円墳が出現する後三世紀中頃までを弥生時代とよぶ。弥生時代に花開いた文化の一つが弥生文化であり、「水田稲作を生活全般の中においた文化」である。
・・筆者が重視する弥生文化の指標は、大陸出自の要素である。その内訳は経済的な側面である水田稲作や畑作、社会的な側面である環壕集落、方形周溝墓、戦い、祭祀的な側面である稲作(穀霊)儀礼、青銅器祭祀の三つの側面である。(同、p234)
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遼寧式青銅器文化という文明化(第一期)
最初に手本となったのは、弥生水田稲作が始まる契機となった遼寧式青銅器文化である。殷周の青銅器文化や、北方系シャーマニズムに系譜をもつ、鏡や武器型青銅器をシンボルとしている。・・九州北部に水田稲作を伝えた人びととは、こうした威信財システムやその意味を知り、実践していた人びとである。彼らが威信財を手に入れるために余剰生産物の蓄積に余念がなかったことは想像に難くない。それは縄文のまつりとは違って、集団内での特定集団化、個人の位置を保証する有力な手段だったからである。 玄界灘沿岸地域の在来民の心を動かしたのは何だったのだろう。小むずかしい理屈よりも、自分たちが慣れ親しんできたものとはまったく異なる、目の前に差し出された金色に輝く青銅器。日本列島の住人が初めて目にする金属器だったと思えてならない。 私たち現代人が目にしているのは青銹がふいた青銅器だが、それは二五〇〇年以上の歳月を経て錆びた結果である。当時の人びとが目にしたのは、わびさびの青銅色の金属ではなく、金色に輝く金属だったのだ。 青銅器の光沢はスズの量で決まる。特に弥生時代が始まるころの青銅器に含まれるスズの量は少ないので、より金色に近いのである。ちなみにスズの量が多くなる弥生後期以降の青銅器は、新品の十円玉の色、いわゆる赤銅色をしている。 こういうキラキラと輝く物を初めて目にした在来民の衝撃はいかばかりだっただろう。あれが欲しい、手に入れるためには稲作というものを行わなければならない。そしてそのためには自分たちが信じてきた考え方や価値観を、コペルニクス的転回しなければならなかった。筆者はこのように想像している。 つまり水田稲作を始めるということは、拡大再生産を指向し、威信財獲得レースに参加することを意味していたのだ。そして一度レースに参加したが最後、もうレースから外れることはできない。水田稲作にしがみついて生きることになる。一度はいったスイッチを切ることはできないのだ。(藤尾、同書、p235-237)
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初期鉄器時代という文明化(第二期)(前四世紀前葉、前期末〜中期初頭)
・・このとき、弥生人の目にとまったのは、光り輝く青銅製武器のほかに、銀色に輝く万能の道具だった。これまで弥生人が知っていた石の斧の何十倍も速く木を切り倒し、加工できる鉄の道具の威力に、弥生人は魅了されたに違いない。・・人は一度味わった、便利で快適な生活を捨てることはできないのである。 鉄や青銅器などの文物を手に入れるためには交換財としてのコメをさらに増産する必要があるため、拡大再生産に拍車がかかる。また青銅器は海の向こうから手に入れるだけではなく、自分たちでも作り始める。国産化の開始である。(藤尾、同書、p237-238)
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秦漢世界という文明化(第三期)(前一世紀以降)
・・中国中原世界との交流が・・本格化。倭は、名実ともに、漢語を共通とする東アジア世界と一体化する。(同、p238-239)
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利根川以北の水田稲作文化
1) 仙台以南の地域: 経済的側面こそ弥生文化と共通する部分が多いものの、社会的・祭祀的な部分は縄文文化と弥生文化の両方の要素を持っている。拡大再生産のスイッチを入れたけれどもうまく機能しなかったのか、そもそもスイッチを入れる意味を知らなかったのか、どちらかの可能性がある。2) 東北北部の水田稲作文化: 網羅分散型の生業体系の一つに水田稲作が位置づけられていたことが、土偶のまつりとの共存を可能にした。経済的側面でさえ弥生文化とは異なっていた可能性がある。その意味では縄文文化の水田稲作と考えることもできる。水田稲作の目的が異なっていたのだ。(同、p239-240)
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古代化に踏み出した「中の文化」(三世紀中頃、奈良盆地に突如現れた巨大な前方後円墳によって、日本列島は古墳時代という新しい時代に入る。)
古墳時代とは、・・鏡や青銅器のまつりと、墳丘上で行われてきたまつりが統合されて新しく創造された祭祀を行うことがトレンドとされた時代であった。古墳の成立とはきわめて政治的、祭祀的な日本の歴史上の到達点だったのである。(同書、p240-241)
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