「白痴」: Lebedev は「のだいこ」?

2019年1月17日 木曜日 雪

Alan Myers 訳 オックスフォード版 「白痴」

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‘And I’ll do it, I’ll walk on my hands.’

‘You see! And you’ll get nothing, nothing, you can dance about for a week!’

‘That’s right! Give me nothing, that’s what I deserve! And I’ll dance. I’ll leave my wife and little children to dance before you. Grovel! Grovel!’ (ibid, p9)

補註 目の前にいる人物が最近250万ルーブルもの遺産を相続したラゴージンその人であることを知って、レーベジェフは機会の前髪をつかもうとする。面白くもあり、また、現実社会ではいかにも往々にして遭遇する場面である。

補註 grovel 英語の辞書では・・ 【自動】1.腹ばいになる 2.ひれ伏す、屈服する、卑屈な態度を取る。英語からはどう訳すのだろう? 「ひれ伏すのじゃ! ははー。ひれ伏すのじゃ! ははー。」といった感じに訳すだろうか。光文社版の亀山訳では「ちょっとは喜ばせてくださいよ、お頼み申します!」(光文社古典新訳文庫 白痴1、 p20)となっている。原文ロシア語に当たらないと私の英語からの重訳ではオリジナルから遠ざかってしまっている危険がある。

補註 レーベジェフは立派な幇間であるが、プロではない太鼓持ちすなわち「のだいこ」ということになろうか。「鰻の幇間」に登場する一八のような感じで「陸釣り」を手始めに、ラゴージン邸に乗り込んでの「穴釣り」までレパートリーを拡げてゆく。

幇間の足踊り(ウィキペディアより引用)

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江戸を楽しむ古典落語

2019年1月16日 水曜日 曇り


畠山健二 超入門! 江戸を楽しむ古典落語 PHP文庫 2017年


・・長屋の連中を束ねるのが大家さんだ。大家というと地主だと思われるが、実際は地主から店賃の集金や、入居の管理などを委託されているチーママみたいな存在。だから家賃の滞納者が続出しても「花見に繰り出そう」などと能天気なことを言っていられるのだ。その反面、長屋では重要な役割も担っていた。・・・(中略)・・・後見人や身元保証人としての役目も果たしていたのだろう。   「大家といえば親も同然、店子といえば子も同然」とはたとえではなく、それ以上の結びつきがあったのだ。そんな御一行の花見は毒づき合いながらも楽しそう。(畠山、同書、「長屋の花見」、p19-20)


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 人間が生きていくにはつらいことも多い。だが深刻な問題も「落語的」という物差しに合わせてみると、微笑ましいものになってしまうから不思議だ。ここに落語の奥深さがあるのだろう。つまり落語は、日本人が気楽に生きていくための教科書なのだ。(畠山、同書、はじめに、p3-4)


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 幇間とはお座敷などの宴席で客の機嫌をとり、遊興を盛り上げる男で、「男芸者」などと揶揄されることもある。 柳橋や新橋、赤坂といった一流料亭や吉原の遊廓に属していた幇間もいれば、「鰻の幇間」に登場する一八のように、金になりそうな旦那を見つけ次第つきまとうハイエナのような幇間もいて、これを「のだいこ」と言った。幇間は営業行為を釣りに置き換えて、客に取り巻くことを「釣る」と表現した。路上で取り巻くのが「おか釣り」、客の家に押しかけるのが「穴釣り」などと言った。(畠山、同書、「鰻の幇間」、p40)
「鰻の幇間」といえば八代目桂文楽。・・三遊亭圓生が「鰻の幇間」を演じたのは文楽がなくなってから。このへんに名人圓生の気位が感じられる。(畠山、同書、p40)


補註 今ではユーチューブで聞くことができる。

桂文楽(八代目)「鰻の幇間」https://www.youtube.com/watch?v=lk3MantVKD0  同じく https://www.youtube.com/watch?v=78kMgqj7t6s同じく https://www.youtube.com/watch?v=58XdI5zFJ9w

今日現在、三遊亭圓生の「鰻の幇間」はユーチューブ検索では見つからなかったが、圓生(六代目)の昭和54(1979)年3月16日 東京落語会 イイノホールでの「百年目」を聞くことができた。亡くなる半年前の映像とのこと。 「百年目」 https://www.youtube.com/watch?v=uIadtYv54HE

同じく三遊亭圓生の大山詣り https://www.youtube.com/watch?v=7wE3zkJLt7A 面白い。髪の毛の話で、八代目桂文楽、古今亭志ん生(五代目)、その息子(次男)の古今亭志ん朝(三代目)・・さんのことも面白く語られる。同じく圓生の「文違い」 https://www.youtube.com/watch?v=e6nqatNG5AU まさに名人の話芸。(1)「百年目」「大山詣り」「長屋の花見」「品川心中」などの最後が軽妙な言葉の駄洒落ないし連想慣用句の言い換えで終わるのに対し、(2)「文違い」では少し鈍い男の滑稽な勘違いで(笑わせて)終わる。「庚申待:宿屋の仇討ち」では、軽いサスペンスに軽妙な種明かしがあって落着する。下に紹介する「風呂敷」もこの範疇かと思う。(3)一方、「死神」ではスーッと消え入るように不気味に(滑稽無しで)終わる。落語の落ちにもいろいろパターンがあって面白い。

落語の一話は二十数分から四十分程度の読み切り(話しきり聞ききり)のものが多いが、極めて長いお話仕立てのものも面白い。同じ三遊亭圓生師匠のものでは、「札所の霊験」https://www.youtube.com/watch?v=FFLWnEaYPUg (スタジオ録音のようだ。付録で圓生さんの解説付き。)  その他、長篇ものも意外と多い。

古今亭志ん生も白黒だが録画をユーチューブで見ることができる。 たとえば、「風呂敷」  https://www.youtube.com/watch?v=LryfU7Ej9Ls ★補足 ・三界に家なし → 三階に家なし  ・貞女両夫にまみえず → 貞女屏風にまみえず  ・李下に冠を正さず → 直に冠をかぶらず  ・瓜田に靴を納れず → おでんに靴を履かず (昭和30年のNHKの録画が残っていたらしい。当時はテープを使い回していたそうで、貴重な画像が残されていないことが多いとのこと)。上記の「風呂敷」は、プロット自体が工夫されており、最後は言葉の落ちではなく、プロットが見事に完成成就、で拍手となる。(悲劇的なもめ事に至らず、長屋のいつもの夫婦げんかの取りまとめといった体裁が整う。)


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補註 幇間とは・・ウィキペディアより<以下引用>:幇間(ほうかん、たいこ)は、宴席やお座敷などの酒席において主や客の機嫌をとり、自ら芸を見せ、さらに芸者舞妓を助けて場を盛り上げる職業。歴史的には男性の職業である。

幇間は別名「太鼓持ち(たいこもち)」、「男芸者」などと言い、また敬意を持って「太夫衆」とも呼ばれた。歴史は古く豊臣秀吉御伽衆を務めたと言われる曽呂利新左衛門という非常に機知に富んだ武士を祖とすると伝えられている。秀吉の機嫌が悪そうな時は、「太閤、いかがで、太閤、いかがで」と、太閤を持ち上げて機嫌取りをしていたため、機嫌取りが上手な人を「太閤持ち」から「太鼓持ち」と言うようになったと言われている。ただし曽呂利新左衛門は実在したかどうかも含めて謎が多い人物なので、単なる伝承である可能性も高い。鳴り物である太鼓を叩いて踊ることからそう呼ばれるようになったとする説などがある。また、太鼓持ちは俗称で、幇間が正式名称である。「幇」は助けるという意味で、「間」は人と人の間、すなわち人間関係をあらわす。この二つの言葉が合わさって、人間関係を助けるという意味となる。宴会の席で接待する側とされる側の間、客同士や客と芸者の間、雰囲気が途切れた時楽しく盛り上げるために繋いでいく遊びの助っ人役が、幇間すなわち太鼓持ちである、ともされる。

幇間の豆本田髷(ウィキペディアより引用)

専業の幇間は元禄の頃(1688年 – 1704年)に始まり、揚代を得て職業的に確立するのは宝暦(1751年 – 1764年)の頃とされる。江戸時代では吉原の幇間を一流としていたと伝えられる。(以上、ウィキペディアより引用)

補註 上に紹介したのと同じく六代目・三遊亭圓生さんの「松葉屋瀬川」(これも非常な長篇物語仕立て)の最後尾に付いていた付録に幇間に関する解説が付いていて興味深かった。

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補註 皆さんは洒落と駄洒落の区別をご存じだろうか。同じく圓生師匠の「大名房五郎」  https://www.youtube.com/watch?v=zCEkTlY8ZhE  の11:00ぐらいから真正の洒落に関する解説があって、勉強になった。


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古代エジプト文明 世界史の源流

2019年1月6日 日曜日 雪


大城道則 古代エジプト文明 世界史の源流 講談社 キンドル電子書籍版・2015年(オリジナルは2012年・講談社選書メチエ)  


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プロローグ


古代エジプト文明とは、神秘とリアリティーとが同居した希有な存在なのである。(キンドル版、40/3181)
古代エジプト文明の血脈は、人々の記憶の中へと潜り込み、その後も世界史の中で脈々と流れ続けているのである。(同書キンドル版、71/3181)


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ミノア文明と古代エジプト文明


クレタ島「古代ギリシア世界の最南端」という見方は、現代ヨーロッパ側からの一方的な見解であり、このような偏った感覚から、われわれは自由にならなければならない。(同、364/3181)


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補註 190116 巨大ピラミッドの造営方法について昨日、ユーチューブにアップされている動画で、大ピラミッドの造営方法に関しての推論で、リーズナブルかつ面白いもの:<建築家のウーランさんの内部トンネル説>:があった。また、大がかりなエレベーター構造で巨石(60トン)を積み上げたという仮説。 https://www.youtube.com/watch?v=8tO4Q8cyyDI ピラミッドの内部構造などに関して情報を得たのは、私は今回が初めてである。大変勉強になった。


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ドストエフスキー 白痴 2019-3 顔はほがらかに見えますが、実際はものすごく苦しんでこられたんじゃありませんか?

2019年1月14日 月曜日(成人の日で祝日) 曇り


「驚くべき顔です!」公爵は答えた。「それに、この人の運命は、並大抵のものではないように思います。顔はほがらかに見えますが、じっさいはものすごく苦しんでこられたんじゃありませんか、え? 目がそれをあらわしていますよ。それにこのふたつの骨、目の下の頬の部分にあるこのふたつの点。これは、誇り高い顔です、ものすごく誇り高い。でも、どうなんでしょう、彼女って気立てがいいんでしょうか? ああ、気立てがよかったら! すべてが救われるのに!」(同、第一部、第3章、亀山訳 光文社古典新訳文庫 p89)


 ・・「とびきりの美人さんだ!」公爵は熱くなってすぐにそう言い足した。  

 写真にはじっさい、異常なまでに美しい女性が写し出されていた。その女性は、驚くほどシンプルかつエレガントな仕立ての、黒いシルクのワンピースを身につけてていた。見た感じでは、髪は濃いブロンドらしく、飾り気のないごくありきたりなスタイルに束ねてあった。目の色は黒っぽく深みを帯び、額はもの思わしげだった。顔の表情は情熱的で、どこか傲慢な感じもした。面立ちはいくぶん頬がこけ、顔の色は青白いように見えた。(亀山訳、p75)


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The Idiot 2019 (2) 補註など

2019年1月8日 火曜日 晴れ

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Fyodor Dostoevsky,  The Idiot,  translated by Alan Myers 1992, with an Introduction by William Leatherbarrow 1992, Oxford World’s Classics, Oxford University Press. オリジナルは1868年刊。

補註 この小説の時代のお金の価値について:

As money plays an important role in The Idiot, it may be helpful to establish that the Russian rouble in the novel is roughly equivalent to £2 sterling (or $3) in present-day money. (Note on the Translation、同書、xxiii) 補註 この訳書が1992年の刊であるが、2019年1月9日現在の為替相場では、1ドルが108円、1ポンドが138円となっている。1992年1月9日の為替相場を調べてみると 1ドルのTTMは124.50円、1英ポンド(pound sterling)TTMは233.81円、となっている。ちなみに、ロシア・ルーブルの変化は著しく、1990年〜2000年の1月9日は三菱UFJのサイトでは検索できない。2018年1月9日は検索できて、1ロシア・ルーブルがTTM1.98円である。1868年(明治初年)頃と比べて、ルーブルと円は100分の1以下に下落している。それはさておき、1868年のロシアに戻ると、1ルーブルは現在の3ドル、約350円として、小説「白痴」の中で、ラゴージンが紙にくるんで紐で縛って持ってきた10万ルーブルの価値は、現在の30万ドル、日本円にして3500万円である。これをナスターシャが火中に放り込ませて火がちろちろと燃え移っていく場面・・その描写はまさに狂気の時間、劇的シーンである。一方で、主人公の公爵の受け継いだ資産が10万ルーブル程度、ということであれば、エパンチン一家の人びとがこれを聞いて少し落胆したのもむべなるかな。エパンチン将軍は途方もない財産家であり現役のビジネスマンであることが小説の冒頭近い部分で詳しく語られている。公爵の十数万ルーブルという資産は、定職をもたない27歳の青年が結婚してから何十年も妻子を養っていくにはいささか心許ない額かと思われる。現在の日本円の3500万円もそんな感覚であろう。

補註 that Moscow murderer: a reference to Mazurin, who murdered the jeweller Kamykov with a razor in July 1866, having bound the handle to ensure a better grip. ・・・(中略)・・・ Dostoevsky modelled Rogozhin on Mazurin, who was also of merchant stock and had inherited two million roubles.(本文のp481&p645への巻末の訳者注釈、p656&p658、同書) 200万ルーブルは現在の日本円にして7億円ほどの価値。とすれば、たとえば当時の英国に投資(七つの海で年利7%!)しておけば年に15万ルーブル(現在の日本円で5000万円)ほどの収入が得られる資産ということで、これは文句なく巨額な財産といってよいだろう。これほどの資産があれば、10万ルーブルをすぐさま工面することも不可能ではない。かといって、その札束をペチカに放り込めるかというと、常人には、悪性の神経熱(今でいうウイルス性脳炎など)に冒されてでもいない限りは不可能であろう。

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ペテルスブルクの地理: 

蒸し暑いペテルスブルクの7月。

ペテルスブルク中心部の地図〜1860年代頃? 同書・解説・xxxより引用

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1910年頃のサンクトペテルブルクの地図 ウィキペディアより引用。

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パヴロフスクについて:

白痴』には、パヴロフスクの別荘(ダーチャ)に住む裕福な人々(「ダーチニキ」dachniki)たちの生活が描かれている。

パヴロフスク ウィキペディアによると・・・

パヴロフスク(パブロフスク、ロシア語: Па́вловск、ラテン文字表記の例Pavlovsk)は、サンクトペテルブルク市の中心の南方30kmほどの位置にある都市。ロシア皇帝の離宮のあるツァールスコエ・セローの町の南に位置し、行政的にはサンクトペテルブルク市プーシキン区に属する。以前はレニングラード州プーシキン市の一部であったが、同市は1998年にサンクトペテルブルク市に併合されその一部となった。人口は14,960人(2002年国勢調査)。

パヴロフスクの町は、ロシア皇族の夏の邸宅の一つであるパヴロフスク宮殿の周りに発展した町である。同宮殿はユネスコ世界遺産サンクトペテルブルク歴史地区と関連建造物群」の一部である。

・・・(中略)・・・

ロシア革命以前、パヴロフスクは首都サンクトペテルブルクに住む富裕な住民たちのお気に入りの夏の別荘地であった。フョードル・ドストエフスキーの小説『白痴』には、パヴロフスクの別荘(ダーチャ)に住む裕福な人々(「ダーチニキ」、dachniki)たちの生活が描かれている[2]

ロシア最初の鉄道であるサンクトペテルブルク=パヴロフスク=ツァールスコエ・セロー間の鉄道は1837年10月10日に開通し、交通の便は良くなった。ロンドンの地名にちなみ「ヴォクソール・パビリオン」(Vauxhall Pavilion)と呼ばれた駅舎は、当時は一種のコンサートホールとしても使われ、ヨハン・シュトラウス2世フランツ・リストロベルト・シューマンといった有名音楽家らが鉄道会社にロシアへと招かれパヴロフスク駅で演奏会を開いた[3][4][5]。多くの観客が演奏会を聴くために鉄道に乗ってパヴロフスクへとやってきた。この駅舎の名声は、「大きな鉄道駅舎」を意味するヴォクザル(Vokzal, Вокзал)というロシア語単語になって残っている[6]。 以上、ウィキペディアから引用終わり。

補註 「白痴」の中では、ムイシュキン公爵が朝、パヴロフスク駅から汽車に乗って、1時間もしないうちにペテルスブルクに着いたと書かれている。 An hour later he was already in Petersburg, and was ringing at Rogozhin’s house some time after nine. (Oxford版、p633)・・ペテルスブルクの中心から南方 30km なので、なるほど、当時の鉄道(蒸気機関車)で1時間もかからずに行ける距離なのである。

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