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お金が、すべてだからです!:ロシア人が金にたいしてリアルな感覚を持ちえないという事情

2019年12月19日 木曜日 快晴

ドストエフスキー 賭博者 亀山郁夫訳 光文社古典新訳新書 2019年12月20日初版第1刷

「『奴隷』論は鼻持ちならないなんて口先では言いながら、奴隷そのものは要求なさるわけですね。『つべこべいうな!』ってわけだ。それならそれでけっこう。どうしてお金が必要か、お尋ねになった。どうしてもこうしてもありません。お金が、すべてだからです!」(亀山訳、同書、p66)

ところが奇妙なことに、ーーーぼくが昨日、ルーレットのテーブルに触れ、金の束をかき集めはじめたあの瞬間からーーーぼくの恋はまるで後景に退いてしまったかのようだった。これはいまだから言えることで、あのときはまだ、そのことにはっきりと気づいてはいなかった。はたしてこのぼくはほんとうにギャンブル狂なのだろうか、ぼくはほんとうに・・ポリーナをそんな奇妙な愛し方で愛していたのだろうか?(亀山訳、同書、p276)

労働の何たるかを理解しないのは、あなたが初めてじゃありません(わたしはべつにあなたの国の民衆について言っているわけじゃありません)。ルーレットは、もっぱらロシア的なギャンブルです。(亀山訳、同書、p323)

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「ルーレット場」のギャンブル狂たちは、そのほとんどが破滅以外の解放の選択肢を奪われた、運命の囚人なのである。(亀山、同書「読書ガイド」p340)

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金は、あらゆる不平等を平等にする。ドストエフスキー『未成年』(亀山、賭博者「読書ガイド」p338)

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「ルーレットは、それに関わるあらゆる生活に対して、都市のほとんど全体に対して、そのカーニバル的影響力を及ぼす。(バフチン『ドストエフスキーの詩学』望月・鈴木訳・筑摩学芸文庫、亀山訳『賭博者』読書ガイド p339 に引用されている)

補註: 日本でもカジノを導入しようという話が進んでいると聞く。私はカジノの導入に反対である。それというのも、この日本においてすべての財産は、3,000年来のこの日本列島に住みついて労働=農耕してきた人々の血と汗によって積み上げられてきたものから成長したからである。(補註##参照)。

パスカルの確率論や「大数の法則」に言及する必要もなく、カジノを導入すれば必ずその経営母体たる大資本=欧米金融資本へと富が流れるのである。それでなくても今荒廃しつつある日本列島の非都市的な部分(森林・里山・田畑を中心とした『ふるさと』といったもの)から富が奪われ荒廃が加速するのが目に見えるからである。カジノのカーニバルの果てに見えるもの・・この小説の主人公のように「あなたはどうせここに留まるでしょうし! そう、あなたは自分をだめにしてしまった。(亀山訳『賭博者』p322)」・・という結末へと(短時間で)突き進んでいくことになるからである。

ロシア人が金にたいしてリアルな感覚を持ちえないという事情について、のちにアポリナーリヤの夫となるワシーリー・ローザノフがあるエッセーで書いている。「ロシアにおいてすべての財産は、『せがんで手に入れる』か、『贈与された』もの、ないしは、だれかから『略奪した』ものから成長した。財産において、労働は、ほとんど介在しない。だからこそ財産は脆弱であり、大切にされないのだ」(『切り離されたもの』)(亀山訳『賭博者』読書ガイドp337)(補註###参照)

カジノは、そのあがりの7割を営業主体であるカジノ経営者(ラスベガスのサンズ社など)が取り、15%を国が、残りの15%を自治体が取る、という約束になっています。またも国富(国民の稼ぎ)が外国資本にチューチューと吸い取られていくさまがありありと見えるようですね。(小浜逸郎 横浜IR誘致に反対すべき本当の理由 小浜逸郎 ことばの闘い 2019年9月5日付け https://blog.goo.ne.jp/kohamaitsuo/e/a44f29f6598e178ad9c5e51b97ebcc0c 同じ記事が、新経世済民新聞2019年9月5日付け記事にも掲載されている https://38news.jp/economy/14535

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補註: ウィキペディアによると・・・

ルーレット (フランス語: roulette) は、回転する円盤に球を投げ入れ、落ちる場所を当てるカジノゲーム。ルーレットはカジノの女王とも呼ばれ、多くのカジノで提供されている。19世紀初めにフランスで現在の形が完成し、「小さな輪」を意味するフランス語がゲームの名前となった。 プレーヤーは、回転するホイールの赤または黒の番号付きコンパートメントに小さなボール(反対方向に回転)が収まるように賭ける。 ベットは、ホイールのコンパートメントに対応するようにマークされたテーブルに置かれる。 世界中のカジノでプレイされている。 ルーレットは銀行のゲームであり、すべての賭けは銀行、つまり家、またはゲームの所有者に対して行われる。 ビッグベッティングゲームとして、その人気は他の人、特にクラップス、ブラックジャック、ポーカーによって米国とカリブ海の島々に取って代わられた。(<以上、ウィキペディアから引用終わり>

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補註 カジノ ウィキペディアによると・・・ https://ja.wikipedia.org/wiki/カジノ 

カジノはヨーロッパ起源とされる。ルイ15世の時代にフランスにおいて、カジノの元となる上流階級向けや庶民向けの賭博場が広まった。フランス革命によって王政が倒れると、賭博に対する制限が無くなり更に流行したが、総裁政府の時代には賭博場を公認としてコントロールしつつ、課税するようになった。ナポレオンは賭博規制を行った。第三共和政の1907年に合法化された。(ウィキペディアから引用)カジノはヨーロッパ起源とされる。ルイ15世の時代にフランスにおいて、カジノの元となる上流階級向けや庶民向けの賭博場が広まった。フランス革命によって王政が倒れると、賭博に対する制限が無くなり更に流行したが、総裁政府の時代には賭博場を公認としてコントロールしつつ、課税するようになった。ナポレオンは賭博規制を行った。第三共和政の1907年に合法化された。イタリアでは1638年に世界最古と言われるカジノ・ディ・ヴェネツィアが作られた。ドイツでは保養地のバーデン=バーデンに最古のカジノができた。後発のヴィースバーデンのカジノは1771年設立という記録が残っている。イギリスには継続営業中のカジノとしては世界最古の「クロックフォード」が現存する。モナコでも19世紀にカジノが広まった。アメリカでは1931年にネバダ州で合法化され、1940年代にはラスベガスがカジノの町として急速に発展した。1960年後半から1970年代になるとスペイン、オランダ、オーストラリア、南アフリカ共和国、ケニア、セネガル、アメリカのニュージャージー州などで合法化され新しいカジノが作られた。(以上、ウィキペディアから引用)

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補註## 日本の米作りの労働に関しては、たとえば以下の文章(富山和子 日本の米 環境と文化はかく作られた 中公新書 1993年 より引用)を参照下さい: 「行けども行けども平らかなこの大地こそ、紛れもなく米が作ってきた大地であり、三〇〇年の間日夜たゆみなく水路の見回り、水路の手入れ、水のかけひき、田作り、土作りにいたる何十何百と知れぬ米作りの労働がつづけられ、重ねられて来たたまものである。」(富山、同書、p94-95) 

補註### ウクライナ〜ロシア、あるいは北米のプレーリー、南米のパンパスなど、チェルノーゼム(黒い土)の豊かさを、たとえば関東平野の「黒ぼく土」と比較して考えてみて下さい。同じように黒く見える土でも、元来の豊かさは大きく隔たっているのです。(日本列島の「黒ぼく土」が、そのまま農耕するなら、貧しく痩せているのです)。https://quercus-mikasa.com/archives/10419 私見による仮説ですが、日本列島の三〇〇〇年来の米作による積み重ねによって創られた豊かさと、チェルノーゼムの天与の豊かさと、その対比が両民族の差異に反映されているのではないかと思ったりしています。一方、前者の「積み重ね」は、もともとの豊かさではないので、比較的短期間たとえばせいぜい1〜2世代ほどの期間のネグレクトで脆くも失われてしまう弱さを持っていることを忘れてはなりません。

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