literature & arts

ロスチャイルドになる野心 vs なる気はないしなってもしようがない

2019年12月20日 金曜日 雪

亀山訳 白痴4 p19


ガヴリーラが腹を立てることといえば、たとえば、プチーツィンがロスチャイルドになるといった野心をもたず、そういう目標を立てることもしない点にあった。「いやしくも高利貸しなら、とことんその道をきわめて、人々を絞りつくして金をまきあげ、大いに気骨を示してユダヤの王になれ!」というわけだ。

・・・(中略)・・・

(プチーツィンは)、自分の仕事が正確だということで超一流の方々にも知られ、たいへんな評価を得ているし、事業も拡大しつつあると(ガーニャに向かって)述べ、「ロスチャイルドになる気はないですし、なってもしようがありません」。そして彼(=プチーツィン)は笑いながらこう言い添えた。「ただ、リテイナヤ通りに一軒、ビルをもつことになりそうです、ひょっとすると二軒になるかもしれません、でも、それでおしまいです」。≪ひょっとして三軒になるかも知れない!≫と内心で思ったが、けっしてその夢を口には出さず、胸のうちにそっと隠しておいた。自然はこういう人物を好み、愛でるものなので、プチーツィンには三軒といわず四軒のビルを恵むにちがいない。それはほかでもない、彼がまだほんの子どものころから、自分がけっしてロスチャイルドにはならないことを知っていたためである。しかしそのかわり、プチーツィンに五軒以上のビルを恵むことはけっしてないし、彼の立身も、これでもってピリオドが打たれることになる。(亀山訳 白痴4 p18-19)


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補註 十代の頃ドストエフスキーの『未成年』を読んで、私は、初めてロスチャイルド(ロートシルト)の名を知り、以後はこれに関連したさまざまな書物を読みあさってきた。読書遍歴は紆余曲折を経ながらも、やはりこうしてドストエフスキーに辿りついてしまうのである。


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こうした連中の最大の特徴は、自分たちがいったい何を発見すべきなのか、自分たちが一生をかけていったい何を発見する心づもりでいるのかーーー火薬か、アメリカかーーーを、それこそ一生をかけてもはっきりと知ることができずにいる点にある。ただし、彼らの苦悩と発見されるべき対象への思いは、事実、コロンブスやガリレオのそれに劣らない。(亀山訳、白痴4、p15


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