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自由と、地上に十分にゆきわたるパンは、両立しがたいものなのだ。

2023年1月22日 日曜日 曇り

ドストエフスキー 亀山郁夫訳 カラマーゾフの兄弟2 光文社古典新訳文庫 2006年(原作は1879-1880年)

 ・・おまえは知っているのか。何百年の時が流れ(補註#)、人類はいずれ自分の英知と科学の口を借りてこう宣言するようになる。犯罪はない、だから罪もない、あるのは飢えた人間たちだけだ、と。『食べさせろ、善行を求めるのはそのあとだ!』。おまえに逆らって押し立てられる旗にはそう書かれ、その旗によっておまえの神殿は破壊される。おまえの神殿の跡地には新しい建物が建てられ、新しいバベルの塔が新たにそびえ立つのだ。といって、これまた前の塔と同じく、完成を見ることはないがな。(ドストエフスキー、同訳書、p268)

 ・・こうして、ついに自分から悟るのだ。自由と、地上に十分にゆきわたるパンは、両立しがたいものなのだということを。なぜなら、彼らはたとえ何があろうと、おたがい同士、分け合うということを知らないからだ! (同、p269)

 ・・この地上には三つの力がある。ひとえにこの三つの力だけが、こういう非力な反逆者たちの良心を、彼らの幸せのために永遠に打ち負かし、虜にすることができるのだ。そしてこれら三つの力とは、奇跡、神秘、権威なのだ。おまえは、それらのいずれをもしりぞけ、自分からそのお手本を示してみせた。(同、p275)

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補註: ローマ教皇と教皇領:  ウィキペディアによると・・世俗君主との関係では8世紀頃まで東ローマ皇帝の主権下にあり、教義問題で皇帝と対立した教皇が逮捕され、流刑に処されるということもあった。8世紀中ごろ教皇領が成立し、東ローマ帝国から離脱した・・とのこと。

ピピンの寄進と教会の世俗化: ウィキペディアによると・・ ピピンの寄進

フランク王国でメロヴィング朝の君主に替わってカロリング家が実権を握るようになると、教皇とカロリング家は接近し非常に親密な関係を結ぶようになった。ランゴバルド王国を牽制したかった教皇ザカリアスは、751年に名目だけの王と成り下がっていたフランク王国(メロヴィング朝)のキルデリク3世を廃し、カロリング家のピピン3世の王位簒奪を支持してカロリング朝が創設された。本格的に教皇領が世俗の国家のように成立するのは、翌752年にこの国王ピピン3世(小ピピン)がランゴバルド王国から奪ったイタリアの領土を寄進してからである。この時期ラヴェンナ大司教は東ローマ皇帝の利益を代弁し、ローマ教皇と北イタリアの教会の管轄権を争っていた。ピピン3世はランゴバルド族を討伐すると、ラヴェンナを征服し、ローマ教皇に献じ(ピピンの寄進)、教皇の世俗的領土として教皇領が形成された。カトリック教会の中心であるローマ教皇庁が領土をもったことは、精神的な存在であるはずの教会の世俗化につながった。<以上、ウィキペディアより引用終わり>

補註続き: ピピンの寄進(8世紀)から8世紀後・・それが16世紀のローマカトリックによる異端審問へとつながると(ドストエフスキーは)理解してこの第2部第5編を「プロとコントラ」書いているのではないだろうか。東ローマ帝国の正教、そしてロシア正教と、ここイワンの物語の中で描かれているローマカトリックとその分かれ(プロテスタント)とは、ドストエフスキーの文学を理解する場合には、精密には分け隔てて考えていく必要がありそうだ。

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補註# 物語の設定は16世紀のセビリア、それから何百年の時が流れ・・ということであれば、具体的に何を指して言っているのかと考えると、18世紀末のフランス革命、19世紀中頃のヨーロッパを席巻した革命思想、特にマルクスの共産主義革命思想を指しているように読み解かれる。「人類はいずれ自分の英知と科学の口を借りてこう宣言するようになる。犯罪はない、だから罪もない、あるのは飢えた人間たちだけだ」、と。新しいバベルの塔は共産主義思想をも指し示し、来るべきロシア革命(1905年・1917年)とその崩壊(1990年頃)をも予言するような書かれ方となっている。

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