agriculture

弥生時代から古墳時代の日本列島に、現在のような水田の景観は広まっていなかった。

2024年1月27日 土曜日 曇り時々陽射し

佐藤洋一郎 稲の日本史 角川選書 平成14年(2002年)

なかなか広まらなかった水田稲作

 ・・畦や水路を伴った水田は弥生時代からあったものの、それらが永続性をもってひとところに定着することはなかったということになる。弥生時代から古墳時代の日本列島に、現在のような水田の景観は広まっていなかった可能性が高い。つまり水田は常畑(補註:じょうばた)として長くひとところにはなかなか定着しなかったようにもみえるのである。(佐藤洋一郎、同書、p156-157)

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常畑: ウェブ辞典によると・・[日本における畑作文化]
 畑作農業には,(1)特定の耕地を占有して肥料を与え連作する方法の常畑(じようばた)と,(2)特定の期間を畑として利用し,あとは(a)樹木を植えて休閑する切替畑(きりかえばた),(b)草木のはえるままに放置しておく焼畑とがある。(1)の常畑と(2)の(a)の切替畑が丘陵や平坦部に展開してきたのに対し,(2)の(b)の焼畑が里山や奥山の一部などの山地を中心に展開してきたことは大きな違いであるが,ともに水田稲作農業が不適だとされる地方に行われてきた点が共通している。…※「常畑」について言及している用語解説の一部を掲載しています。出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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水田稲作を広めた力

 限りある土地

 常畑化した水田の稲作を広めようとしたのは明らかに人為的な力、それも支配者の力であった。(中略)一方、人口の増加などによって自由に使える土地に制約が出てくると、それまでのように従来の耕地を放り出して新たに開墾することができにくくなる。一箇所の土地を耕し続ける時間は長くなり、常畑化が進行する。(佐藤洋一郎、同書、p167)

 荘園という私的土地所有の形態は、常畑化を一層進める方向に作用したと思われる。(中略)こうした投資の行為は、荘園の持ち主やそこで耕作する人びとをますます土地に縛りつける結果となった。物質的にも精神的にも、人びとは土地に帰属してゆく。そして田は次第に、休耕の期間をもたない常畑へと変わっていった。(佐藤、同書、p168)

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鉄と稲作

 農業技術上の変革も、水田稲作の後押しをした。たとえば鉄製農具の導入がそうである。鉄製農具の登場で、水田稲作の作業らしい作業が初めて可能になったといってよい。だいいち木製農具を作るにしても鉄の道具がないと満足なものはできない。(中略)線維と直角方向に正確に切るには鉄の有無は決定的に重要である。

 このように考えると、水田稲作が始まったのは畦や水路などのしかけをちゃんと造れる農具、つまり鉄製の農具が導入されて以後のことと考えるのが自然である。それも、既製の鉄製農具が導入されたというだけでは不十分で、自前で製鉄し、十分な量の鉄を供給するシステムができることが重要である。わずかばかりの鉄製農具が輸入されただけでは、それらが農具となって生産の現場にまで下りてゆくことはないからである。(佐藤、同書、p169)

 水田稲作のひろまりを考えるとき、鉄にはもうひとつ大事な効用がある。(中略)成熟期に鉄欠乏になると収量が大幅にダウンする。水に溶ける形の鉄(酸化鉄)は安定的な米の収穫には必須であった。(佐藤、同書、p169)

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常畑化は支配層の発想

 古代に入って国家がその体をなしてくるにつれ土地制度とあわせて税制が整備された。(中略)税を取りたてるにはまず、どこどこにムラがあり、そこには何人の人口があって収穫がいかほどかというセンサスが必要になる。それには区画つまり面積のはっきりした常畑のほうが移動をくりかえし面積の評価さえ困難な焼畑よりずっと都合がよい。(佐藤、同書、p171-172)

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水田稲作と宗教

 水田稲作が土地に対する固執性を高めることは容易に想像できるが、これはもともと支配者にとってのことで、実際に田を耕す側の人びとには土地に固執する必然性は本来はあまりない。焼畑のように耕作と休耕をくりかえす農耕のほうが技術的にも楽な面があるし、今よりもっとよい所があればそこに動くことも不可能ではない。過酷な税から逃れて、あるいはうちつづく戦乱から逃れて新天地を求めて移動する「難民」も、実際のところ少なくなかったであろうと思われる。

 だから耕作者を土地に縛りつけておくには何か精神的な縛りがぜひとも必要である。この土地を離れられないとの想いを植え付ける必要がどうしてもあった。(中略)とくに仏教の果たした役割は、中世以後ずいぶん大きかったであろう。(佐藤、同書、p174-175)

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