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「鬼を尚ぶ」といわれた殷人のゆたかな古代的神信仰習俗

2015年11月27日 金曜日 曇り

「鬼を尚ぶ」といわれた殷人のゆたかな古代的神信仰習俗

白川静 中国古代の民俗 講談社学術文庫484 1980年

 中国の民俗学研究においても、その民俗伝承の出発点とすべきものが重要であることはいうまでもない。しかし中国の古代については、その民族形成の過程がすでに複雑であり、考古学的な時代においても、各地にそれぞれの古代文化があり、いずれもかなり独立的なものであったことが知られている。
 そのうち文学資料を通じて考えることのできるものは殷王朝の文化であり、この殷文化がいちおうの出発点となる。・・・(中略)・・・
 殷人は「鬼を尚ぶ」といわれ、古代的な神信仰の習俗もゆたかであったが、これに代わった周の貴族社会の繁栄のうちに、古俗は礼制化され、古伝承は経典化され、わずかに詩篇国風のうちに、民衆の生活が伝えられた。しかし春秋戦国の列国期における領土国家への発展と、久しくうちつづいた戦乱のために、古代の共同体は解体し、農村の生活は破壊され、民俗伝承の場は失われた。秦漢以後の民衆は、古い信仰を持続すべき場所を奪われて、ほとんど俗信の世界に投げ出されている状態であった。
 後漢の王充は、「論衡」においてそのような俗信をきびしく批判したが、経典に定める祭祀については、たとえば五祀といわれる・・・(中略)・・・などの祭祀を認めている。この形式的合理主義が、古代の民俗を圧殺したのであった。魏晋以後、志怪の風が一時に起こるのも、それへの反動ともみられるが、それはすでに説話の形式をとるものであった。古代の民俗の時代は、説話文学以前に、その実践期があったとみてよい。説話文学では、すでに道・仏などの他の思想も入りまじって、民俗の固有と純粋とが失われているからである。(白川、同書、p298-299)

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