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科学者が読み解く環境問題

2016年3月29日 火曜日 晴れ

武田邦彦 科学者が読み解く環境問題 シーエムシー出版 2009年

「循環型社会の構築」というテーマは一面では科学的であり、別の面では政治的・社会的であるから、その議論をどのように進めていくかについての経験が社会も学会も不足していたものと考えられる。(武田、同書、p136)

PET(ポリエチレンテレフタレート)ボトルのリサイクル
ペットボトルのリサイクルは結果としてペットボトルの消費量を増やしたが、これは「結果論」ではなく、社会構造の変化とそれに伴う「材料と工業製品」の必然的増産と考えることができる。(武田、同書、p139)

(リサイクルペットボトルは)資源的には石油から製造される場合の約6倍の経費(資源)を使用していることになる。(武田、同書、p146

ペットボトルのリサイクルでは、二つの大きなエントロピーの増大がある。その一つは拡散のエントロピーの増大、もう一つが劣化のエントロピーの増大である。・・・ペットボトルのリサイクルは資源の有効な利用にはならない。(武田、同書、p148-149)

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プラスチック容器約500万トンのうち、リサイクルの資源消費量を無視すればリサイクル率は4.6%、資源が節約できたリサイクルという意味でのリサイクル率はわずか1.4%にしかすぎない。また、プラスチック消費量の全量、1,400万トンを基準とすると、資源量の制限がない場合のリサイクル率は1.7%、資源が節約できた場合に限定すれば0.5%となる。 このようにプラスチック・リサイクルが現実的には難しい理由は、プラスチックの種類が多いこと、プラスチック製品の比重が軽いこと、そして、プラスチックが劣化することなどによる。(武田、同書、p150)

化学工業のスケールファクター
日本に製品の製造工場はそれほど多くない。該当するプラスチックを分別し、それをトラックに積載して製品にする工場まで運搬することは不可能である。プラスチックを含めていわゆる「ゴミ」を焼却せざるを得ないのは、資源化する工場が全国に多くても数十カ所の規模であるのに対して、焼却工場は10万人当たり少なくとも1基程度はあるので、全国では1,000基以上になり、その比率は100倍になる。これを工場だけのスケールファクターでは100の0.6乗(以下の補注1参照)だから、リサイクルのコストは焼却のコストに比べて6倍(以下の補注2参照)になる。さらに、運搬の負荷は・・・・・以下、略・・・(武田、同書、p147-148のまとめ、p151)

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補注1: 0.6乗則
化学系装置産業のスケール・ファクター:装置の大きさ(普通は処理量)が2倍になると、そこで使うエネルギーなどが2の0.6乗、つまり約1.5にしかならない。(武田、同書、p147)

補注2: 本章の武田さんの論点の趣旨には影響はしないので、この補注は読み飛ばしてください。数字にうるさい方のみ、以下をお読みください。
100の0.6乗は、電卓で計算すると、15.8。よって0.6乗則では、16倍。
2の0.6乗は、1.515。100は2の6.64乗。1.5の6.64乗は、15.8。すなわち、2倍2倍と計算して適用した0.6乗則でも、約16倍。指数計算なので(電卓のまるめの影響を除けば)両者は当然同じ値になる。
100の焼却場で処理するプラスチック・ゴミの量を100a、1つの化学工場で再生処理するプラスチック再生原料の量を同じく100aとして考えてみた。工場だけの処理の経費は、焼却場規模の化学工場で再生処理した場合の100bに対し、百倍の規模の化学工場で再生処理した場合は、0.6乗則を適用して、100bの16分の1すなわち6bである。
100の焼却場で100aのゴミを焼却した場合の経費を100cとおいてみる。
100aの処理能力をもつ化学工場で再生処理したコストは、上記の通り、6b。
それぞれ100aのプラスチックゴミを処理したコストとして、100cと6bの関係については、当該ページには与えられていないので、6bが100cの6倍、という武田さんの論旨には飛躍がある。
武田さんの6倍、というのは16倍のミスプリか・・と思ったが、6倍という数字はこのあたりから混線してきたのかもしれない。
いずれにしても、ゴミ焼却の経費が与えられていないので、このページの記載だけからでは比較検討すべき資料が不足していると思われる。・・以上は、数字を見ていて少し引っかかったために考察したまで。本章の武田さんの論点の趣旨には影響はしないので、この補注は読み飛ばしてください。

補注の補注:6倍という数字の根拠は、武田さんの同書、p148に説明されているのでご参照ください。
1a単位当たり1bのコストがかかる再生工場に対し、20倍の規模の石油化学工場では20単位のものを作るのに20の0.6乗すなわち6.03倍のコストしかかからない。従って、1単位当たりのコストは0.30b。再生工場では規模が20分の1であるために、1a単位当たり1b、すなわち適正規模の石油化学工場にくらべてコストが70%も高くなる。・・それでも3倍程度で、武田さんの説明のような6倍にはならない。再生化学工場も規模に関しては適正規模なのに、処理できる原料の20分の1の原材料しか供給されない、だから6倍にコストが跳ね上がる、などという条件が暗黙に設定されているためにこのような結果が導かれるのであろう。専門外の私の一方的な理解不足かとも心配されるので、この辺りは、後ほど頭を冷やして再考してみたい。

補注 0.6乗則が当てはまらないものの例として
http://www.takagifund.org/activity/interview/04_ui/index3.html 宇井 純さん「適正技術」を日本で考える より<以下引用>
下水処理場も一種の化学工場だから、当然規模の利益はあるだろうということで、「0.6乗の法則」と言うのがあって、「設備投資は生産量の0.6乗に比例する」というのが当てはまるはずだという議論があるのですが、実はそういかない。というのは、だいたいどこの町でも地盤が悪い場所に下水処理場を作りますから、基礎費がどんどん増えてきて、ここでも規模の利益が成り立たなくなる。という問題にぶつかってしまった。そうしますと、そこから出てくる結論は、むしろ中小規模のものをたくさん作る方がよさそうだということです。

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