読書ノート

ディケンズ ドンビー父子(3)

2017年4月20日 木曜日 曇り

ディケンズ ドンビー父子 田辺洋子訳 東京こびあん書房 2000年

原作は1846年10月から48年4月まで月刊分冊形式で刊行され、表紙を飾った正式名は Dealing with the Firm of Dombey and Son, Wholesale, Retail, and for Exportation (卸し、小売り、貿易業「ドンビー父子商会」との取り引き手控え)

挿し絵は全て長年ディケンズの挿絵画家を務めた「フィズ」ことハブロット・ブラウン(Hablot K. Browne)による、とのこと。

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 ポールはその顔をまともに見据え、これ、ほんとに父さん? と思った。だが、彼にしてみればそんなに見る影もなくやつれ果てた顔は、みるみる、まるで痛がってでもいるかのように歪み、こっちが両手を差し延べ、はさんで引き寄せぬ内から、人影は小さなベッドをそそくさと離れ、戸口から姿を消した。(ディケンズ、同書・上巻16章、p270)

 「河のやつ、何てずんずん流れやがるんだろう、緑の土手や、アシの間をさ、フロイ!(=フローレンスの愛称) でも、海ももうじきだよ。波の音が聞こえるもの! ああ、あいつら、いつもひっきりなしに囁いていたっけ!」(同、p273) ・・・(中略)・・・「ママって姉さんに似てるね、フロイ。だって、一目でママだって分かるもの!」(同、p274)

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 フローレンスの胸を、よもやそんな思いが過ぎったというのではない。だが愛は、拒まれ、望みを絶たれし時、気取るに敏く、望みは、彼女が父の顔を見つめて立ち尽くす間にも、フローレンスの愛から消え失せた。(同書、p307)

 彼女の見ていた夢はーー哀れ、フローレンスよ!ーーその時をもって潰え、彼女にはそれが二度と再び蘇ろうとは思えなかった。(同書、p307)

・・が、今や彼の心は娘になびくどころか、頑なになるばかりであった。彼は部屋に引き返すと、ドアに鍵を掛け、椅子に腰を下ろし、喪った息子を思って涙した。(同書、p308)

補註 弟のポールが亡くなってすぐの頃、ドンビー氏旅立ちの前夜。

「フローレンスは年からすればーーまだ十四にもなっていなかったからーーほんの子供にすぎず(同書、p305)」。「彼女の思いにあってさ迷うものはただ一つ、愛を措いてなかったーー実に、さ迷い、打ちやられながらも、常に父へと向かう愛を措いては。(同書、p305)」。

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補註 ウェルターが出張する西インド諸島のバルバドスとは? ウィキペディアによると・・・
バルバドス(英語: Barbados)は、カリブ海、西インド諸島内の小アンティル諸島東端に位置する、英連邦王国の一国たる立憲君主制国家である。島国であり、島全体が珊瑚礁で出来ている。海を隔てて約200kmの北西にセントルシア、西にセントビンセント・グレナディーン、南西にグレナダとトリニダード・トバゴが存在する。首都はブリッジタウン。<以上、ウィキペディアより引用終わり>

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