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グローバル化のなかでの日本回帰・万葉回帰

2021年2月23日 火曜日 祝日 晴れ

上野誠 万葉集講義 最古の歌集の素顔 中公新書2608 2020年

『万葉集』編纂の志向性

・歴史による分類志向・・・時間軸に沿って歌を配列して、読めば、歌によって歴史を辿れる。

・四季による分類志向・・・歌を四季に分類して、四季の歌を楽しめる。

・地理による分類志向・・・律令国家の定めた国や地域を念頭に、その地域にどんな歌があるかを知ることができる。

・発想・技巧による分類志向・・・歌自身の発想や技巧を、楽しみ学ぶことができる。(上野、同書、p177-178)

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▽ものごと・・・特定の時場、特定の人物に対して、自らの心情を表現する(宴、行事、狩りなどの時場に依存する表現)

▼あや・・・不特定の時場、不特定の人物に対して自らの心情を表現する(文学として独立した表現)

・・四つの志向性は、すべて、『古今和歌集』に受け継がれたのではあるけれど、その後千年のやまと歌の歴史を辿ると、『古今和歌集』以降のやまと歌は、「あや」を求める文学となり、恋情発想はもとより、なかんずく四季の文学になっていった。・・つまり、四つの志向のうち、花鳥風月の四季への関心が、『古今和歌集』以降のやまと歌の世界の中心となっていったのである。(上野、同書、179-180)

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グローバル化への同調重圧のなかで

東アジアの漢字文化圏の一員となるということは、日本の生き残り戦略のうえで、必要不可欠な選択であった。それは、今日でいうグローバリズムの波である。だから、グローバル化への大きな同調重圧が働くことになるのである。ここでいう「同調重圧」とは、同じようにならなくてはならないとする圧力のことである。ところが、この同調重圧が強くなればなるほどに、ローカル化への同調重圧も強くなってゆく(=日本回帰志向)。そうやって、辺境に生きる人間は、心のバランスを取ってゆくのである。・・・(中略)・・・

グローバル化への同調重圧を大きくするもう一つの重大な要因は、戦争である。戦争に負けるということは、戦争に勝った国の文化に従うということにほかならない。・・太平洋戦争の戦時中ほど、『万葉集』がもてはやされた時代はなかった。  では、戦争が終ったらどうなったか。じつは、相も変わらず万葉礼讃の時代は続いたのである。アメリカ文化の大波のなかで、左派の文化人も右派の文化人も、同じく『万葉集』を持ち上げたのであった。江戸後期の国学者たちによる古典研究も、ひしひしと迫りくる西洋列強の東洋進出という重圧のなかで生まれたものである。私たちの万葉学も、この時期の研究の蓄積に負うところが大きいし、それを凌駕できているわけでもない。(上野、同書、p232-233)

・・ただ、私は、グローバル化のなかでの日本回帰、万葉回帰をあからさまには否定したくない。というのは、いつの時代も、文化の辺境に生きる私たちは、そうやって心のバランスを取ってきたからである。・・一方、やみくもな礼讃言説に対しては、「『文選』なくして『万葉集』なし」と言ってバランスを取りたい、と思う。今、私が、本書を世に問う理由は、次の一言に尽きる。

それは、『万葉集』そのものが、東アジア漢字文化圏の同調重圧のなかで、もがき苦しんだ祖先の文学であったということを、少しでも多くの人びとに知ってほしかったからである。(上野、同書、p233-234)

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