板谷秀紀 賢治幻想曲 れんが書房新社 1982年
私たち日本人の心の土台を作っているアニミズムの世界
・・・私たちの祖先は山や木や石といった自然物に神霊が宿っていると考え、それを素直に信奉してきました。・・・このアニミズムは心で信ずる宗教とは別に感覚的な習俗として今でも私たちの血の中を流れ続けています。ですから科学を学び深く仏法に帰依した賢治といえども、このアニミズムの影響から脱することはできなかったようです。
その例の一つとして戯曲「種山ヶ原の夜」をあげることができます。木を払いさげてもらって炭を焼こうと営林署に願い出た青年と、カシワやナラやカバの樹の霊たちとのやりとりを描いた作品ですが、そこではカシワの樹霊が楽しそうにお神楽をはやし、それをカバの樹霊がほめそやします。
権現さん悦ぶづどほんとに面白いな。口あんぎあんぎど開いで
風だの木っ葉だのぐるぐるど回してはね歩ぐどもな。
(種山ヶ原の夜 宮沢賢治全集11巻p371)
権現さんはいうまでもなく岩手山の神霊と同系の山神です。
賢治の作品に軽妙な味をそえているこのアニミズム的感覚は、「山川草木みな」からさらにそれを形づくっている分子や原子といった微塵にまで、あまねくゆきわたっていたように思われます。(同書、p147)
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