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河上肇の法然院十韻

2016年4月19日 火曜日 曇り

一海知義 漢詩一日一首 平凡社 1976年

以下は、青空文庫より引用: http://www.aozora.gr.jp/cards/000250/files/43720_33018.html (ただし、訓読については、一海さんの訓読に書き換えた。)

二月二十三日

洛北法然院十韻
聞説千年昔  聞くならく千年の昔、
法然此開基  法然ここに基(もとゐ)を開くと。
十載重曳杖  十載をへて重ねて杖を曳きてきたり、
三歎聊賦詩  三歎して 聊か詩を賦(つく)る。
都塵未曾到  都塵 未だ曾(かつ)てここに到らず、
湛寂無加之  湛寂(たんじゃく)なること 之に加ふるなし。
脩竹掩徑竝  脩(なが)き竹は 径(みち)を掩うて並び、
痩松帶苔※(「奇+支」、第4水準2-13-65)  痩(や)せたる松は 苔を帯びて※(「奇+支」、第4水準2-13-65)かたむく。
池底紅鯉睡  池の底には 紅(あか)き鯉の眠〔ママ〕り、
嶺上白雲滋  嶺の上には白き雲の滋(しげ)し。
深院晝猶暗  深院 昼 猶ほ暗く、
佛燈如螢煕  仏灯 蛍の如く煕(ひか)る。
地僻磐韻淨  地は僻にして 磐韻(ばんいん) 浄く、
山近月上遲  山近うして 月上(のぼ)ること遅し。
絶不見人影  絶えて人の影を見ず、
時有幽禽窺  時に幽(かそ)けき禽(とり)の窺(うかが)ふ有り。
春雨椿自落  春雨 椿 自(おのづか)ら落ち、
秋風梟獨悲  秋風 梟(ふくろう) 独り悲む。
酷愛物情靜  酷(はなは)だ愛す 物情の静かなるを、
斯地希埋屍  斯の地 希(ねが)はくは屍(しかばね)を埋めむ。

二月二十六日定
この詩を作りし時、法然院には墓地なきものと思へり。後に至り、そこには名家の新しき墓若干あり、三井家の墓地またここに移さるる由を聞き、わが屍を埋むるはやはり故郷(補注:山口県)に如かずと思ふに至れり。昭和十七年十二月三十日追記

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一海さんの訓読から:(一海、同書、p60)
脩竹掩徑竝  ながき竹は 道を掩いて並び
痩松苔を帯びてかたむく 痩せたる松は 苔を帯びてかたむく ※(「奇+支」、第4水準2-13-65)かたむ-く

補注 磐韻(ばんいん)? (宿題とさせてください) 白川・字通、p1303、磐を引くも、磐韻は載っていない。

補注 酷(はなは)だ愛す 酷は、白川・字統p334によると、コク・きびしい・はなはだ 「酒味厚きなり」とあって、酒味の濃厚であることをいう。転じて、酷烈、酷刑、のように用いる。また副詞に用いて、酷似・酷愛のようにいう。秦・漢以後の多く用い、酷虐のことにいう例が多い。(白川、字統p335より)

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