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こもりと顕現のくり返しによる永生と新生

2016年4月21日 木曜日 晴れ

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吉野裕子(よしのひろこ) 蛇ーー日本の蛇信仰 講談社学術文庫 1378・Y960 1999年(原本は、1979年、法政大学出版局)

古代日本の哲学:こもりと顕現のくり返し

古代日本の哲学というものがもしあったとすれば、蛇信仰の根強さから考えて、それは多分に蛇の生態に負うものだったと思われる。 蛇の生態の中でも、その脱皮ほど彼らに驚異の念を与えたものはなく、・・・(中略)・・・天象としては太陽の運行、地象としては植物の枯死再生をもすべて、こもりと顕現のくり返しであると観じ、このくり返しによってはじめて永生と新生が保証される、との認識を得たのである。(吉野、同書、p277)

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・・より深くその脱皮する生態に関連させられていると私はかんがえる。古代人の考えを復原すると、次のようなものではなかろうか。 脱皮はめでたいものである。しかし、本来、人間には脱皮ということはない。しいて脱皮に似た現象を人に求めれば、それは女性における妊娠・出産である。・・カニやヘビの脱皮とは単位を異にする脱皮が、女を通してのみ連綿としてつづくのである。その単位とはヘビやカニの脱皮がそれ一代であるのに対し、妊娠・出産は世代を単位とするものになっている。(吉野、同書、p288)

そうして、蛇のこの脱皮新生術を嫉視した彼らは、次の段階においてその術を真似し、自らにも蛇と同じくこの世における永生をはかろうとする。 つまり、蛇のトグロを連想させる円錐形の仮屋、所によっては「グロ」と呼ばれる仮屋を、一年あるいは人生儀礼の折目節目や神事の際につくり、そこにこもっては出て、このくり返しをもって人為的な脱皮新生の術としたのである。(吉野、同書、p288-289)

・・・いろいろの形で新生・脱皮の呪術が行われた。これら呪術の根底にあるものは生命の西方志向を中央にねじむけ、「今」を中央に積み重ね、「今」をして「永遠の今」たらしめようとする意図であり、その規範は脱皮をする蛇の生態に求められていると考える。 さらに、この情意的な基層理念の上に成り立っていた日本の祭りや習俗は、七世紀末、陰陽五行の導入によって構造化され、冷静な枠組みの中におかれるに至るが、しかもなお両者は併存し、後代に及ぶのである。(吉野、同書、p305)

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