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情報数学のはなし

2016年7月6日 水曜日 晴れ

大村平 情報数学のはなし 情報理論から暗号・認証まで 日科技連 2001年

情報の0と1の信号やモールス信号などで通信するとき、なるべく通信の効率が高くなるように情報を符号化する方法:
そのコツは、出現確率の大きな文字ほど、なるべく短い符号に変換すること。文字の境めが正しく伝わるように配慮しながら。(大村、同書、p137より抄)

この本は「情報数学のはなし」です。その面子(めんつ)にかけて、この智恵を数学で裏打ちしておこうと思います。ちょっとおもしろい結論が期待できますから、ぜひ、お付き合いください。(大村、同書、p139)

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誤りがあるときの情報量
私たちは、2羽の兎を追っている最中でした。前の章では、情報をできるだけ効率的に通信するための符号化を追究してきました。それが1羽目の兎です。こんどは、通信の誤り防止という兎を追いかけようと思います。これが、2羽目の兎です。(大村、同書、p141)

パリティ検査(parity check)
パリティ(parity)は均等とか平衡を意味する単語ですが、数学では整数を偶数と奇数に分類することを指すそうです。(大村、同書、p147)

誤りを自ら訂正するために追加した符号を誤り訂正符号と総称しています。いまの例では、行と列に付け加えられたパリティ符号がいっしょになって誤り訂正符号となっているわけです。(大村、同書、p156)

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整数の性質を研究とする数学(整数論あるいは単に数論)
理論構築は高尚ですが世俗的な利益には結びつかず、研究する先生方もその孤高を誇り(?)に思っている風情さえありました。  ところが、近年になって整数論が世俗的な意味でも脚光を浴びてきました。現代暗号の仕組みの中に整数論か活用されはじめたからです。(大村、同書、p237)

暗号の数理
RSAは、素数どうしを掛け合わせるのは容易なのに、素因数に分解するのは著しくむずかしい、言い換えれば、素因数に分解するためのアルゴリズムがわかっていないという一方向性(一方通行性ともいう)を利用する暗号。・・秘密鍵があれば容易に逆走できるような関数を落とし戸つき一方向性関数と呼ぶ。(大村、同書、p245−246)

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なぜ日本はアメリカとの金融戦争に負けたのでしょうか。それは、金融工学と暗号における数学力の差なのだそうです。アメリカでは、多数の優れた数学者が金融界に集められてデリバティブ(金融派生商品)などの商品を生み出すいっぽう、その取引に使われる暗号を解読するなどして、金融戦争で大きな利益を上げているというのです。(補注**) 日本の大手のメーカーでも、数学出身の社員を物作りの部門にではなく、財務部に投入するのを苦々しく思っている私としては、こういう経済活動は人類に富をもたらさず、社会の歪みを増長するばかりだと思うのですが、いかがでしょうか。ましてや、暗号解読までが経済活動の一部とは・・・。(大村、同書、p203-204)

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補注 この大村さんの情報は2001年9月4日(平成13年)発行時点のもの。この日の7日後には911事件からのいわゆるテロとの戦争、そしてアフガニスタン・イラク戦争が始まった。二十世紀末の金融戦争で暗号解読が戦略として使われていたというのは、今の私(2016年時点)にとっても初耳であった。まさに「戦争」が行われていたのだろう。しかし、「戦争」という言葉は社会(あるいは国際社会)の道理を覆いかくす危険がある。つまり、ある営みを人々が「戦争」と名づけてしまえば、どうしても「何でもあり」であり、「勝者は何でも許される」というニュアンスがつきまとってしまうからである。これは、まずい。やはり、「犯罪」ないし「不正」という言葉できちんと捜査・解明が為されるべき営みである。戦争と呼ぶべきではない。

しかし、金融取引はマクロの歴史的な観点から見れば、すべてが詐術に満ちている歴史かもしれない。フェアプレイの慣行などが実施されたためしがあったのだろうか。歴史をたどりながら、もう少し深く考え、整理してみなければならない。(2016年7月7日追記)

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補注** アメリカの大手証券会社が、顧客(他証券会社)のデリバティブ取引の大きな注文が入った場合に、その取引施行の100分の一秒ほどの僅かな時間差に(つまり一瞬前に)自社取引を介在させる売買自動プログラムを用いてシステマチックに(自動的に誰にも悟られず長年にわたって)巨額の利益を得ていたことが明るみにでた(あるいは公然の秘密となった)こと・・・(今から10年ほど前だろうか、田中宇さんからの情報で)私も知っていた。これなどは、われわれ素人から素朴に眺めれば、経済戦争というよりは経済犯罪として処罰されるべきカテゴリーだと思うが、実際には「戦争」として歴史が刻まれつつあるような気がする。殺人も余りにも巨大な殺人は戦争の英雄的な行いとされるように、経済犯罪も国家を動かす巨大な企業によって巨大な利益を生めば(金融犯罪と呼ばれず)金融戦争の勝者として巨万の富を得て発展してゆく。これが、現代の経済戦争史の1ページを構成している。

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補注 この本は以前にも紹介した大村の情報本(情報のはなし1970年)の続編ないし(単なる改訂ではない)書き下ろし新版の位置づけである。両方読んでも良く、対比してもとても面白い。以下、以前の記事(「情報のはなし」の読書ノート)より再掲:

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情報エントロピー:不確かさはエントロピーで測る

2016年6月14日 火曜日 曇りときどき小雨

大村平、情報のはなし 日科技連 昭和45年(1970年)

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こういう考えかた(熱力学の分野でいわれているエントロピーの概念)は、情報の世界でもうまく利用できるし、それに、エントロピーを表す式の形まで全く同じなので、情報の世界にも、エントロピーの概念が定着してしまいました。(大村、同書、p51)

情報理論という分野では「情報エントロピー」なる概念が生まれた。そこで定義された「情報量」が、ボルツマンのH関数と同じ形をしているのである。 ただし、情報理論の祖クロード・シャノンは当初、統計力学のエントロピーを知らなかったらしい。また、彼がいうところの「エントロピー」とは、状態の集合の性質(状態数)というより確率事象の性質(くじを引いてびっくりする度合い)として考えられている。・・・さらに、この発想から転じて、自然界や宇宙全体を<デジタル情報そのもの>としてとらえようという面白い試みーーー「情報としての物理学」も進んでいる。(鈴木炎 エントロピーをめぐる冒険 初心者のための統計熱力学 講談社ブルーバックス 2014年 p254)

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不確かさを測る:不確かさはエントロピーで測る

エントロピー H = p・log2(1/p) + q・log2(1/q)

不確かさを表すこの量をエントロピーといいます。結果が二つだけで、一方の結果になる確率がp、他方の結果になる確率がqであれば、その不確かさ、すなわちエントロピーは、どんな場合でも

p・log2(1/p) + q・log2(1/q)

で表されます。(大村、情報のはなし、p47)

情報の増加は、エントロピーの減少
エントロピーは、「情報」を考えるのになくてはならない概念です。エントロピーは不確かさを表しており、不確かさかげんがはなはだしいほどエントロピーが大きくなります。(大村、同書、p50)

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ひとくちにいえば、私達の行為のほとんどは、秩序をすなわち情報を作り出すことを目的としています。

生命現象は情報製造

エントロピー増加の法則にさからって、秩序を作り出すことが生命現象の本質であるならば、社会にも生命があるように考えてはいけないでしょうか。つまり、固体の生命現象も、社会活動も、情報を生産することによってエントロピーを減少させているという点は共通なのです。(以上、大村、同書、p54-57より抜粋)

***** 以上、再掲終わり *****

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