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ファーブルが観た夢

2016年9月29日 木曜日 晴れ

森昭彦 ファーブルが観た夢 地球生命の不思議な迷宮 ソフトバンククリエイティブ 2010年

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ジガバチ

けれども、先のジガバチがそうしたように、まず、アゴのちょっと下、人間でいえば首のつけ根のあたりを突き刺すことが観察される。  ジガバチの麻酔は、基本的に局所麻酔である。当面の間、相手の攻撃・防御力をむしり取るには、ここへの一撃が便利であるらしい。少なくとも、いもむしの、硬い葉っぱを噛みちぎる、強力な大顎を黙らせるにはもってこい。  彼女たちは、ひとつの仕事をするのに、さまざまな工夫をこらし、試行錯誤しているのは間違いない。それを割愛してしまうと、生命のみずみずしさが失われ、同じ仕事しかできぬ、つまらない機械装置となりはて、興味もわかない。  あのジガバチが、へたくそだったわけではない。  むしろ、わたしの先入観が(不勉強さが)、彼女をへたくそに仕立てあげてしまったのだ。(森昭彦、同書、p54-55)

万が一、中枢神経を切断すれば、獲物は完全に絶命する。ひどく傷つけても死期が遅れるだけ。あくまで安定した仮死状態になるよう、外部から破壊するのであるが、人間であってもやっかいなワザを、彼女たちは寸分の間違いもなく、みごとに成し遂げてしまう。・・・(中略)・・・ジガバチはぴょんと飛び上がり、獲物から離れた場所で勝利の舞を踊る。・・ひどく興奮しているのか、地面に腹這いになり、身体を激しく震わせ、ジジジと翅音(はおと)を響かせ、グルーミングをくり返す。(森昭彦、同書、p56-57)

とにかくこのハチは、絶対とはいえぬものの、仲間の巣穴と見るや、埋める。わざわざ埋めてどうなることもないけれど、埋める。不思議きわまりない。(森、同書、p67)

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ジガバチをつけ狙うヤドリニクバエの仲間

ジガバチの赤ん坊が、いくら成長が早いといえ、ハエの子はその数段も上をゆく。なにしろ、ハエが産み落としたのはタマゴではない。すでに母親の中で孵化した立派な幼虫なのである(卵胎生という)。(森、同書、p73)

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フェロモンの解明につながったヤママユ

注目すべきは、この科学史に残るほどの大発見が、こよなく平凡なむしと、素朴な観察から推理されたことである。当時なら、ヤママユなど、ごくありふれた、けばけばしい、迷惑な客人でしかなかった。ファーブルは違う。風変わりな身体のありよう、おかしな騒動を起こす習性から、きっと独特な暮らし方があるのだろうと、生命科学的な想像力をここぞとばかりに膨らませた。結果、偉大な功績となるのだけれど、ここでわたしたちが真に研究すべきことは、フェロモンそのものではなく、そこに至る「さまざまな試行錯誤」、そして「ありきたりな隣人たちの暮らし」ほど興味深いものはない、という事実であろう。

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