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Dickens, Little Dorrit (2)

2017年2月26日 日曜日 雪 道路はスケートリンクのように凍って、信号の手前でクルマのブレーキが効きづらく非常に危ない。予報では今夕はマイナス18度までも冷え込むとのこと。これを通過すれば寒さも緩んでくるかもしれない。・・ところが、いつの間にか予報は訂正されて、マイナス8℃程度とのこと。8℃ならたいしたことはない。昼間の大雪もやんで、夜は快晴で星が光り、無風でも空気はずしんと寒い。クルマの温度計でマイナス6℃程度。

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植木研介 チャールズ・ディケンズ研究ーーージャーナリストとして、小説家としてーーー 南雲堂フェニックス 2004年

Charles Dickens, Little Dorrit, first published in 1857, Penguin Classics edition 1998;

Audiobook: Narrated by: Anton Lesser, Length: 35 hrs and 9 mins, Unabridged Audiobook, Release Date:10-29-08, Publisher: Naxos Audiobooks

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牢獄のイメージの重層性と各層における内側と外側の関係

心の牢獄にせよ、現実の牢獄にせよ、いわゆる牢獄なるものは、そこに閉じ込められた人の心をいかようにでもゆがめる力を持っている。・・この人の心をゆがめる作用を、作家(ディケンズ)は Mr. Dorrit を通して描いている。・・ここには Mr. Dorrit がそうならざるを得ないことへのディケンズの怒りと、それ以上に Mr. Dorrit への愛惜の情が感じられてしかたがない。(植木、ディケンズ研究、p212)

Clennam の内的世界について言うと、彼自身やはり心の殻に入り込んでいるのである。・・Flora に対する迷いから醒めた Clennam も Meagle 氏の娘 Pet に対するとき、やはり自分の独断という心の殻から1歩も出ることができなかった。(植木、ディケンズ研究、p213)

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壁は内にとじ込める役目と同時に外から守る役目をも合わせ持つ二面性を持っている。
・・・(中略)・・・
ペルソナというのは外界に適応しつつ内的世界を守るために外界に対してとる態度であって、こういったいびつな形で殻をかぶらねば生きて行けないというのが現実であろう。人間の心が殻をかぶるというこの現象の描写は、ディケンズの作品全体に見られるものである。このように考えると負債者監獄は Dorrit 氏には精神的荒廃をもたらしても、Chivery や Little Dorrit には “home” であり、外界から純心なこころを守るペルソナの役目を果たしていたのではないだろうか。・・ Clennam は自らの落ち入っている殻をはずすために、牢獄という外界から自らを隔絶する殻を一時借りることによって、精神の脱皮をはかったと言えないであろうか。もしそう考えるならば Clennam にとっての牢獄は、極めて積極的な意味を帯びてくることになる。(植木、ディケンズ研究、p216-217)

幾重にも重なりあった牢獄の中にあっては、より自由な場はその人それぞれのその場所へのかかわりかたにあると言えるであろう。ディケンズは極めて対照的な牢獄の及ぼす影響を、Mr. Dorrit と Clennam とによって表現しているのではないだろうか。Mr. Dorrit に影響を及ぼした牢獄の意味と同時に、私は Clennam の精神の脱皮をはかる場としての牢獄の意味を忘れてはならないと思うし、もしかするとこの世の中の方が、現実の牢獄より不自由なのではないかという恐ろしさを考えねばならないと思う。(植木、ディケンズ研究、p218)

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WIlliam Dorrit を通して描かれたものを要約するなら、「牢の中に長く閉じ込めておくことが人間精神にもたらす荒廃」「家族というものが持つ呪縛力」「回避することの出来ない過去」という三つがあげられよう。(植木、ディケンズ研究、p229)

・・Amy は逆境においてのみ力を発揮する女性であり、 Clennam を愛している一人の女性なのである。天使ではありえない彼女には父を立ち直らせる力はないし、大陸旅行中の Amy には現実感が欠けている。逆境の父と共にいなければ生の実感が得られないこと、これが Amy の心理的病である。父の死のあと兄の看病、Clenanam の看病という事態の中で彼女は蘇生するのである。(植木、ディケンズ研究、p230-31)

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補註 負債者監獄・債務者監獄 ウィキペディアによると・・・

債務者監獄(さいむしゃかんごく、英: debtors’ prison)は、債務を支払うことができない者を収監するための監獄。主に19世紀半ばのイギリスにあったそれをいう。

イギリスでは、1869年の債務者法(the Debtors Act)により、債務者の収監は廃止された。

債務者監獄は、監獄内で収監者に許容される自由の度合いにはかなりの開きがあった。ごく小額の債務であれば、債務者はある程度の自由を許された。ある収監者は、仕事の指図をしたり面会者を受け入れたりすることもできた。またあるものは、たとえばフリート監獄や王立法廷債務者監獄(King’s Bench Prison)では短期であれば、監獄から外出も許された。これは、自由原則(’Liberty of the Rules’ )の名で呼ばれていたものである。フリート債務者監獄では、密かな情事を楽しむこともできた(いわゆる、フリート結婚)。

イングランドの作家チャールズ・ディケンズの父親はこうした監獄のひとつに収監され(マーシャルシー監獄)、彼の小説の中にはしばしばその記述が出てくる。 <以上、ウィキペディアより引用終わり>

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