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philosophy

中島義道 差別感情の哲学

時代潮流に乗る気楽さや安全性

中島義道 差別感情の哲学 講談社学術文庫 原本は2009年講談社より刊行。文庫版は2015年2月10日 第1刷発行

以下、中島本より引用:

その社会における価値観とぴったり一致して差別に怒りを覚える人は、どこまでも「正しい」と評価されるからこそ、あえて自己批判的にならなければならない。その怒りが「正しい」とみなされるからこそ、繊細な精神をもって、自分の怒りには時代の潮流に乗っている気楽さや安全性が潜んでいることをしっかり見据えなければならない。(同書、p66-67)

米谷(*脚注参照)の発言の危険性は、ーーー柳田と同じくーーー自らを正義の側に置いて相手を断罪していることである。しかも、その正義が侵害されたいまとなっては、加害者を徹底的にうちのめしていいという信念に裏打ちされている。 自己批判精神を欠いている人は、時代の風潮に乗った「正義」の名のもとに思う存分その侵害者を弾圧する。・・・(中略)・・・こういう態度は、魔女を一掃することを正しいと信じていた人々、ユダヤ人を全滅させることこそ正義だと確信していた人々とじつのところ「心情構造」を共有しているのである。 われわれはこれまで「正義」の名のもとに壮大な悪がなされてきたことを知らなければならない。「正義」の名のもとに行われる非難・迫害・排除が一番過酷であったことを知らなければならない。(同書、p73)

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*脚注: 本文の内容とは直接関係ないが、作家の米谷(こめたに)ふみ子さんと中島義道さんについて。中島さんは米谷ふみ子さんとは(中島さんが彼女の書いたものを批判することを通じて**脚注参照)知り合った。「悪について」の10年ほど前だから1980年代後半に、彼女と朝日カルチャーセンターで「語らない日本人」について対談したとのこと。(中島、悪について 岩波新書 2005年 p126参照)

**脚注: 米谷による1986年9月29日付けの朝日新聞紙上での中曾根首相批判について、中島さんが「英語コンプレックス脱出」(NTT出版)で扱ったもの。中島さんの同書については、わたしも近日中に読んでみる予定で本を注文しているところだ。2015年4月18日読了、以下の追記参照。

2015年4月18日追記 中島義道「英語コンプレックス脱出」(NTT出版)の64-66ページ、ならびに、129-130ページ参照:
「そんな表層報告でなく、もっと深くアメリカ社会に入り込んで、からだごとぶつかっていったものとして、米谷ふみ子の一連の著作は単なる比較文化ではなく人間のあり方を問いかける。戦後すぐにアメリカに渡り、ユダヤ人の脚本家と結婚し、二人の男の子を授かったが次男は自閉症。アメリカ社会におけるアジア人差別、ユダヤ人の親戚からの差別、障害者差別という幾重の差別を経て、彼女はたくましく生きていく。・・・中略・・・私も何度か会ったが、その虚飾のないライフスタイルはすばらしいものだと思う。」中島義道「英語コンプレックス脱出」(NTT出版)の129-130ページ

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