2020年3月16日 月曜日 晴れ
岡田尊司 死に至る病:あなたを蝕む愛着障害の脅威 光文社新書 2019年
生理的な満足や快感から、精神的な充足感や達成感まで、喜びや満足の種類も幅広いように思えるが、人に喜びや幸福を与える生物学的な仕組みは、実は三つしか存在しない。
一つは、お腹いっぱい食べたり、性的な興奮の絶頂で生じるもので、エンドルフィンなどの内因性麻薬(脳内麻薬)が放出されることによって生じる快感だ。生理的な充足と深く関係し、われわれが生きることに最低限の喜びを与えてくれる。
二つめは、報酬系と呼ばれる仕組みで、ドーパミンという神経伝達物質を介して働いている。大脳の線条体の側坐核と呼ばれる部位で、ドーパミンの放出が起きると、人は快感を味わう。 ドーパミンの放出が起きるのは、通常、困難な目的を達成した時だ。サッカーのゴールの瞬間や、・・数学の問題を解けたときとか、マラソンを完走したときも、このタイプの喜びが生じることにより、再び努力して、次の目標を達成しようというモチベーションが生み出される。
ところが、この報酬系は、しばしば悪用される。面倒な努力抜きで、ドーパミンの放出だけ引き起こし、短絡的な満足を与えてしまえば、強烈な快感を手軽に得られるのだ。
その代表が、麻薬である。アルコールのような嗜癖性のある物質も、ギャンブルのようなやみつきになる行為も、ドーパミンの短絡的な放出を引き起こすことで、依存を生じさせる(麻薬の場合には、内因性麻薬の放出を伴う場合もある)。
実は、もう一つ、喜びを与えてくれる仕組みが存在する。・・それが愛着の仕組みである。こちらはオキシトシンの働きに負っている。愛する者の顔を見たり、愛する者とふれあうとき、興奮というよりも安らぎに満ちた喜びが湧き起こるのだ。
オキシトシン系の不足を依存や嗜癖的行為で補う
喜びを与えてくれる仕組みは、実はこの三つしかない。あとはつらいことばかりなのだ。この世のありとあらゆる試練や苦痛の代わりに、われわれに与えられている喜びは、それだけである。
頑張っていた優等生やエリートが学業や仕事でつまずいたとき、家族の優しい慰めといたわりによって、立ち直ることができるのは、ドーパミン系の報酬を得ることに失敗しても、オキシトシン系が与えてくれる慰めや喜びによって、それを埋め合わせることができるからだ。
ところが、愛着の仕組みもうまく機能していないと、どうなるか。(以上、岡田、同書、p99-101)
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