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ワインの科学:酒石結晶は天然由来で無害。

2020年3月19日 木曜日 晴れ 雪解け進む(札幌は例年よりも10日ほど早い雪解け)

デイヴィッド・バード著、佐藤・村松・伊藤訳、イギリス王立化学会の化学者が教えるワイン学入門 エクスナレッジ 2019年 (原著は Understanding Wine Technology: The Science of Wine Explained, 3rd ed., by David Bird, 2000, 2005, 2010)

天然由来で害もない?

・・むしろボトルの底に沈んでいる酒石結晶を見つける日が来る可能性は高い。酒石結晶は天然由来の無害な物質だが、一般に消費者には嫌がられ、ときに酒石結晶の混入したワインはたいそうなクレーム付きで返却される。・・・(中略)・・・  結晶ができる仕組みはとても複雑だ。酒石自体はもともと発酵前のブドウ果汁にも完全に溶解した状態で存在する。これは、酒石の量が飽和濃度以下であるからだ。だが、ブドウ果汁が発酵してできたワインはアルコールを含むので、溶解度が小さくなる。このため酒石の濃度が溶解限界を超えると「過飽和」と呼ばれる状態になり、結晶が析出し始めるが、その一方でワインに存在するコロイド粒子が結晶化を抑制する保護剤として作用するので、酒石のさらなる結晶化は抑えられる。ただし、コロイド粒子のこの保護作用は長続きせず、発酵後、数週間から数ヶ月たつとコロイド粒子が変性してその作用が失われ、酒石の結晶が成長し始める。このような現象が瓶内で起こると、「ガラスの破片」や「砂糖の結晶」といったクレームを招くことになる。(バード、同書、p306)

ミニマム・インターベンション

・・それでもやはり手を加えないに越したことはない。ワイン造りにおける「ロー・インターベンション」は間違いなく正しい取り組みである。・・酒石結晶が沈んでいたら、むしろ最小限しか手が加えられていない、自然の状態に近いワインだと一般消費者を説得できれば、ワイン業界にとっても消費者にとっても利があるはずだ。(バード、同書、p317)

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・・そのため、あえて酒石を除去せずにワインを出荷する生産者も増えている。(バード、同書、p441)

・・そもそもワインに酒石結晶が混じっていたとしても、ボトルの底に残るようにゆっくりとワインをグラスに注げばいいだけの話である。仮にグラスに酒石が入ったとしても、ほどなく底に沈んでいくし、口に入ったとしても、ちょっとほろ苦いだけで健康に害はない。酒石とは何か、なぜ酒石が存在するのかを消費者に理解してもらえれば、ワイン業に関わっている人たちはどれほど楽になることだろう。この際、裏ラベルに酒石が無害であることを堂々と明記してはどうかとも思う。昔、あるドイツワインのラベルに「このワインには天然由来の沈殿物であるワイン・ダイヤモンドが含まれています」と表記されていたようにーーー。ちなみに酒石酸水素カリウムは、クリーム・オブ・ターターとして製菓業界で広く利用されている。(バード、同書、p441-442)

補註: ミニマム・インターベンション・・最小限しか手が加えられていない、自然の状態に近いワイン。

補註: 日本ワインの愛好者のほとんどの方々はワインに対する造詣が深く、先輩ワイナリーの##さんに伺っても、酒石その他のクレームは一度も受けたことがないとのことでした。

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2019年8月20日、北海道大学にて撮影。 北海道ワインアカデミーのテイスティング講義にて、私たちが試飲させていただいたもののうち5種の赤ワイン。

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