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妙にそわそわして、そうして溜息ばかりついて、まるでそれこそ恋のやっこみたいです。

2021年3月16日 火曜日 晴れ

太宰治 御伽草子 舌切雀 ちくま文庫版太宰治全集7(オリジナルは昭和20年)

・・そう、こないだ、、ほら、あの、若い娘のお客さんが来た頃から、あなたはまるで違う人になってしまいました。妙にそわそわして、そうして溜息ばかりついて、まるでそれこそ恋のやっこみたいです。みっともない。いいとしをしてさ。隠したって駄目ですよ。(太宰、舌切雀、同書、p440)

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・・しかし、お爺さんは、そのようなお世辞を聞く度毎に、幽かに苦笑して、「いや、女房のおかげです。あれには、苦労をかけました。」と言ったそうだ。(同書、p440)

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・・「おれか、おれは、そうさな、本当の事を言うために生まれて来た。」

「でも、あなたは何も言いやしないじゃないの。」

「世の中の人は皆、嘘つきだから、話を交わすのがいやになったのさ。みんな、嘘ばっかりついている。そうしてさらに恐ろしい事は、その自分の嘘にご自身お気附きになっていない。」

「それは怠け者の言いのがれよ。ちょっと学問なんかすると、誰でもそんな工合に横着な気取り方をしてみたくなるものらしいのね。あなたは、なんにもしてやしないじゃないの。寝ていて人を起こすなかれ、という諺があったわよ。人の事など言えるがらじゃ無いわ。」(太宰、同書、p424-425)

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・・ふっと自分の一番気楽な性格に遭い、之を追い求める、恋、と言ってしまえば、それっきりであるが、しかし、一般にあっさり言われている心、恋、という言葉に依ってあらわされる心理よりは、このお爺さんの気持は、はるかに侘しいものであるかも知れない。お爺さんは夢中で探した。生まれてはじめての執拗な積極性である。

シタキリ スズメ

オヤドハ ドコダ(太宰、同書、p430)

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2021年3月16日HH追記 太宰の「舌切雀」ちくま文庫版太宰治全集7巻、p425-6より<以下引用>

・・うちのお婆さんなど、おれみたいな者ともう十何年も連れ添うて来たのだから、いい加減に世間の慾を捨てているかと思っていたら、どうもそうでもないらしい。まだあれで、何か色気があるらしいんだね。それが可笑しくて、ついひとりで噴き出したような次第だ。

補註: ここでも「男は嘘をつく事をやめて、女は慾を捨てたら、それでもう日本の新しい建設が出来ると思う。(太宰「嘘」」と呼応して、女の慾を描いている。

https://quercus-mikasa.com/archives/11409

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同じく、シャボン横丁さんの朗読で聴く。https://www.youtube.com/watch?v=eEZGV-6b9QU&ab

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