culture & history

合衆国だけが積極的に侵掠できる?

2021年11月19日 金曜日 午後から雨

神野正史 「覇権」で読み解けば世界史がわかる 祥伝社 2017年

 ・・ウィルソンが「勝利なき講和」を掲げたその手が、わずか2か月強で「宣戦布告文」を掲げることになったのです。・・・(中略)・・・このように、アメリカはその場その場のご都合主義で「介入しない」→「介入させない」→「合衆国だけが積極的に侵掠できる」と拡大解釈を重ねてきましたが、「ヨーロッパには介入しない」という一線だけは守りつづけてきました。 しかし、今回(=1917年)その一線をも破り、ヨーロッパへと派兵したことは、ついに「孤立主義」を棄て去ったことを意味しました。(神野、同書、p287)

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14ヶ条の平和原則。

歴史を紐解くと、「評価」と「実態」がかけ離れていることはよくありますが、これもその代表的な一例です。

巷間、「真に平和を愛したウィルソン大統領の国際平和を希求する精神が形となって現れたもの」という認識が蔓延していますが、これぞ、アメリカお得意の、”御為ごかしの美辞麗句(きれいごと)”の塊で、その真の目的は「Pax Americana の実現」にすぎません。(神野、同書、p288-289)

補註 ウイルソン大統領に関しては、第三の大統領立候補者デブス氏の伝記(Bending・・云々)にも別の視点から詳しく描かれています。デブス氏はこの時期、ウィルソン大統領によって投獄されており、これが(私見ですが)デブス氏の寿命を縮(ちぢ)めてしまいました。

補註の補註: デブス氏の伝記は、The Bending Cross: A Biography of Eugene Victor Debs, Truman State Univ Pr (1992/9/1) ・・(私の英語力でも)通読できる良い伝記だと思います。 デブス氏は、私の愛する「アメリカ人」の筆頭候補。 アマゾンの書評にありましたが、The best American who ever lived ・・私も同感です。決して賢くもなく(not wise)、はしこくもなく(not clever)、ノーベル賞ももらわず(neither major prizes nor praises)、国際連盟も作りませんでした(without achieving Pax Americana)が、私はこの稚拙な(標準的なアメリカ人と比べてしまえばかなりな「お馬鹿」とも言われかねない)デブス氏が大好きです。デブス氏の名前は確か、彼のお父さんがビクトル・ユゴーから貰ったのでした。そう思うととても良い名前です。(悪いビクターさんにも私は何人か出会いましたが・・。)

 デブス氏はアメリカでの女性参政権(選挙権)獲得にも力を注ぎました。その女性たちが参政した最初の大統領選挙で、女性たちの票はデブス氏には行きませんでした。女性が参政権を獲得しても選挙結果には以前と比べて何ら変化は認められず、もちろん、デブス氏は惨敗でした。女性たちはデブス氏のような(少々稚拙でも)善良で暖かく正直で優しい男よりも、ウィルソンのようなクレバーで強くて美辞麗句巧言令色男がよいと判断するのでしょうか。あるいは、女性の立場で深く賢く考えれば、自身の伴侶や友人として持ちたいのは優しいデブス氏の方だけれど、アメリカの国益を担って立ち働く大統領を選ぶ場合には、(個人的には大嫌いでも)ウィルソンのような強い「大人の」臨機応変男に投票した方がアメリカの得になる、というようなしっかりした政治的判断のできる大人の女性たちが参政権を得たのでしょうか?

大統領選ではウイルソン候補が勝って、すぐさまウィルソン大統領は掌を返し、アメリカはヨーロッパへと参戦していきました。非戦を唱えたデブス氏は高齢にもかかわらず、投獄されて数年をムショで過ごすことになります。

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